2024年11月

バインディング剥がれ / Martin D-28


スタッフの山口です。

本日は依頼件数の多いMartinのバインディング剥がれ修理です。


製作時よりセルバインディングが縮むことが原因、、、とも言えますが「メーカーが製作時に使用した接着剤がセルの縮む力に耐え得るほどの接着力がないこと」がこの不具合の正確な原因と言えます。

バインディングやピックガードなどプラスチックパーツが経年とともに縮むことは昔から分かっていることですので。

 


この年代のMartinに多い症状です。つまりこの時期数年間使用していた接着剤があまりよろしくなかった、という感じだと思います。


トップ側のバインディングはこの指板の下に潜り込んでいます。実はここが少しも動かないと結構大変な修理になります。

今回は運良く縮んだ分だけ引っ張り出せることに成功しました。通常は動かない場合がほとんどですのでネックリセットの際に一緒に修理するなんてことも多いです。


塗装が余計にチップしないよう慎重にナイフを入れていきます。


隙間に残る古い接着剤は可能な限り取り除かないといけません。古い接着剤は取り除く、修理の基本です。


バインディング修理時によく見る光景。

 


ラッカー塗装はマスキングテープののりにも反応してしまう敏感肌なので最大一晩で剥がすのが吉。

忘れちゃって1週間置いちゃったりしたら青ざめちゃいます。


綺麗に磨いて終了。

この個体の製造時期、2000年頃〜の数年間(?)のMartinはバインディングが剥がれてしまうことが多い様です。現行品は恐らく改善、サイレント修正済みであまり見られません。当時のMartin社内から「なんか接着剤変えてからバインディング剥がれの修理多いな。ヤバイぞ!!」という声が聞こえてきそうですね。製造メーカーに勤めたことがある人にはその社内の様子が容易に想像がつくと思います^_^

バインディングが浮き始めたらなるべく早く修理することをお勧めします。放っておくと服の繊維が引っ掛かった拍子にバリバリ一瞬で剥がれたりする恐れがあります。

虫歯と一緒ですね。僕も早く歯医者行かないと、、、汗

今回も最後までありがとうございました。

 

 

 

ネック折れ(ヘッド分離)修理 / Gibson Les Paul

見慣れていると言えば見慣れておりますが、

最初に見た時はショックだった記憶があります。

他人の私がショックだったのですから、オーナーのショックの大きさは容易に想像できます。

 

この付近が折れ際の接着は、アジャストロッドも一緒に接着してしまわない様にします。

いつも途中の写真はほとんど撮らないのですが、思いだしましたら撮っておきます。

アジャストナットを外して、半月板のワッシャーも外します。

ナットとワッシャーを外したアジャストロッドにグリスを塗布しておきます。

 

 

黒は合わせるのにほとんど問題がありません。

濃い目の色は割と合わせやすいですが、明るい色でシースルーの場合等は割れ跡は隠す事は出来ません。

 


写真だと良く映ってしまう場合や


写真だと良く映らない場合があります。


どちらの場合も、想像を膨らませてごらんくださいませ。

 

ネックヒール隙間(ネックリセット) / Martin D-41


スタッフの山口です。

今回はMartin D41のネックリセットですが、実はネックリセットしたばかりとのこと。手直しというか、完全にやり直しですが、そのためにウチに回ってきた「訳ありさん」です。


ヒールとボディの間をよく見ると0.6〜0.7mmほど隙間ができています。

調弦しても弦の張力で隙間が広がりませんので、ネックリセット時にすでにこの状態で接着された可能性が高いです。


センターも少しズレていますね。

いずれにしてもこのリセットではウチでは納品できません。

 


ヒールキャップ付近から隙間がありますね。左の方は塗装が傷んじゃってます。


よく見ると指板とネックにも隙間が空いています。木工精度が悪い状態で力ずくで組み込んだからでしょうか。


こちら側はボンドで隙間を埋めようとしたことが何となく分かります。


木工精度が悪いのでボンドが熱で軟化しちゃえば楽勝で外せます。


恒例の、、パシャリ。


隙間がなくなるよう、指板がネックから剥がれないようあれやこれやと、、写真撮り忘れて組み込み完了です。


隙間がなくなっています。


もちろんこっち側も、問題なし。ヒール部の塗装の剥げや塗膜割れもラッカーをうまく使って綺麗になりました。


おそらく前回すり合わせされてるのでフレット精度はあまり問題ありませんでした。


ネックバインディングに細かい傷や汚れが散見してたので綺麗にしました。


サドルの出しろも良い感じですね。


ストラップピンを戻して完了です。

ヒール周りも綺麗に修正できています♪


 

前回ネックリセットをした人をここで責めるつもりはありませんが、こうして他の工房の元へ再度出されて手直しされてしまうというのは「悔しい」と自分だったら思います。

ちょっとした隙間だし、ボンドでガッチリ接着されていますので、とりあえずは演奏性も問題ないし、もしかしたら気がつかない、そもそも気にしない人も中にはいるかもしれません。クレーム来なかったらラッキー!みたいな考えで納品したのかもしれません。

でもそれではダメです。

自分が修理したギターがいつ、どこで、どんな人に見られても恥ずかしくないと思える仕事をしなければなりません。これは師匠の皆川がいつも言うことですので当工房のポリシーの一つと言えます。

どんなにやり慣れた作業でも手を抜かず、毎度しっかり向き合い続ければ、その度に新しい気づきや学びがあるものです。そしてその積み重ねがスキルアップと実績、そして信頼に繋がると思うのです。

今回も最後までありがとうございました。

 

 

 

ブリッジ剥がれ修理 / Gibson LG1

何回も剥がれては、貼って・・・「もういやッ!」

と言う画。

ブリッジを作り直した人は、

「Gibsonってブリッジにビス(ボルト)打ってあったよな?」

「ここでいいかッ?」(丸い跡部分)

「ブリッジ、塗装しなくちゃね。」(クラシックギターの場合は、塗装が施されている事が多い。)

このブリッジに関わった人は、こんな事を言ったり考えたりしたのではないでしょうか。

フォークギターにちょっと知識が足りない人の修理なのだと思います。

 

 

 

Gibsonのブリッジにはボルトが打ってありますが意味はあまりないし、位置的にもおかしいので、

取り外します。

Gibsonのブリッジは塗装されて無いので剥がします。

 

 


 

スモールガードのLG1は私も所有していたことがあります。

この年代のLG1はとても良いです。

私には、ラージガードのLG1のイメージとは別のモデルと言う認識です。

現在はわざわざ楽器屋さんに行かなくても色々買えてしまいますので、いろんなギターに触れる機会も皆さん少ないと思いますが、楽器屋さんに行ってみていろいろ弾いてみてください。

本やYouTubeから得た知識(思っていた事)と違う事実が必ずあります。

 

ギターに関わる何らかの職にある人、これからの人も出来るなら、一時でも所有してみてください。

より深いところが見える(感じる)はず。

でもそうは言っても、相場が上がり過ぎだし、バカ政府のドケチアタマワルスギ経済政策ではギターも買えるようにならないね。

悲しい時代だ・・・

 

指板修正 & ステンレスフレット交換 / Futra エレキギター


スタッフの山口です。

今回は昨今話題のブランド、Futraのエレキのフレット交換です。ニッケルシルバーからステンレスにしたい、指板Rを9.5inchから12inchに緩やかにしたい、との理由で交換です。通常フレット交換は「すり減って背が低くなっているから」という理由で依頼を受けることがほとんどですがこういったイレギュラーな理由でももちろんOKです。


ハンダゴテで温めながら指板の溝周りがチップしないようフレットを抜いていきます。温める、というのはギター修理の基本動作の一つと言えます。

ギターも身体も冷やすより温めたほうが良いのです。最近急に寒くなってきたので身体もギターたちも気にかけてあげましょう。


無事に綺麗に抜けましたので指板修正に移ります。今回の大きな目的の一つ、指板Rの変更をします。


普段はセットネックのアコギのリフレットが多いのでボディが無い状態での作業は色々勝手が違ってきます。


ひとまず指板のRを緩やかにするためにマスキング。体制の関係上、真っ直ぐを意識していても左右がブレてしまうので目印代わりのマスキングです。今回はこの状態で擦ってみて自分の癖と相談しながら進めます。


ある程度いい感じになリました。削っても色が変わらないので着色のしていない、色の濃い良い紫檀(ローズウッド)ですね!

老舗メーカーでも着色していることはザラにあります。


Rを最後整えるのは専用のサンディングブロック。「これがあるなら最初からこれ使えば良いじゃん!」と思われると思いますが、初めからこれで削っていくと左右の力のかかり具合によっては端が擦れすぎちゃったりして一向に理想のRにならなかったり余計に削り過ぎちゃうことが懸念されます。どんな道具にも良い点と悪い点、利点と欠点があることが多いのです。

 


後ろから光を当てても漏れてこないので良い感じです。

誰がなんと言おうと完璧な12インチRです。異論は認めません。


9.5インチRと比べるとやはりかなりの違いがあることが分かります。

ギターは最も感覚神経が集まっている指先で演奏する楽器ですので演奏者は0.1mm単位でもその感覚の違いを感じ取ることができちゃいます。なのでセットアップする側は必死に0.1mm単位で闘う必要があるのです。


クレイドットかと思いきやメイプル材のドットですね。


レモンオイルを塗りこんでいざフレット打ちに移ります。


ステンレスフレットはニッケルより硬いのでフレット打ちも手間がかかります。ステンレスの方が料金が高いのはフレット材の原価というよりも手間がかかるためと言えますね!

写真はそれっぽく玄能でコンコンやっている感じですが、せっかくボディがないのでほとんどフレットプレスでやった気がします。


エッジを切り落として最小限すり合わせます。


フレット処理の詳しい工程は今回は省きます。


良い感じに仕上がりました♪


 

R出しのできるサンディングブロックについて道具の利点と欠点のことを書きましたが、、自分のこれまでの経験から得た感覚、道具の精密さと性能、対角にあるこの2つのバランスをうまくとって作業することで仕上がりに大きな差が生まれると思います。

どちらかに偏ってはあまり良い結果が得られないことが多く、その道具の良いところだけを利用して、欠点を自分の人間の感覚で補うのがベストに繋がるのではないかと思います。これは師匠の仕事から学んだことの1つです。

道具や機械の性能を100%信じてそれに任せるのではなく、そこに人間の知恵と感覚をプラスしてコントロールすればもっと良いものが生まれると思うのです。

けれど限りなく100%近く信じられる道具を見つけたときは、とっても嬉しくてテンションが爆上がりしちゃいますね。

今回も最後までありがとうございました。