2025年06月

ネックリセット&リフレット/ Martin D-28


スタッフの山口です。

今回は比較的新しいMartin D-28をお預かりしました。ネック角度不良+順反りということで今回はネックリセットとリフレットのコンボです。リフレットはどちらかというと指板修正を目的として、どうせフレット全部抜くならフレットも新しいものに交換しましょう、というわけです。


いつものヴィンテージとは違い、新めのMartinはアジャスタブルロッド付きです。

ネックの重量も多少増えます。

 


ボディ側ロッド用に全て設計されていますね。この二つの穴は塗装する際に引っかける用の穴なのでしょうか。


いつもネックリセットばかりなのでリセット工程は今回は割愛しました。

組込み後はダブテイルに通じる穴を埋木します。


アジャストロッドがありますので今回は指板修正にネックジグは使いません。


15フレットの溝切りをしてフレット打ち開始です。


フレットプレスもありますが、アコギの場合はフレキシブルに作業できる玄能が最適解なのではないかと思います。ストラトのようにネックが外れるものはプレスする方が良いかもです。


フレットの仕上げまで終わったらナットを新調します。


出来合いのナットも市販されていますが、メーカーやあらゆる年代、何より個体差に対応できる代物は無いので、一見すると面倒ですが一から成形するのが一番仕上がりも作業効率もいいと思います。


Martinぽいナットを作ります。


新しいMartinは底面がフラットというかネックと平行です。伝統的にはヘッドと並行で傾斜がついています。作る方としてはコチラの方が簡単。


弦間がバラバラだと分かりやすく腕を疑われてしまいます。弾きやすさにも直結します。


ある程度溝の深さが決まったら一旦外して仕上げていきます。


いい感じです。


3、4弦のナット溝はそれぞれのペグポストに向かって気持ち斜めに切ってあります。意外と3、4弦の間が広がり過ぎる傾向がありますので注意してください。(自分で作る方は)


フレットのエッジには職人それぞれのこだわりが詰まっています。


僕が特に意識するのは写真のように見たときにフレットの両端が真っ直ぐにビシッと揃っているかどうか。


ここがガチャガチャになったりカーブしないように心がけます。元々指板サイド自体がガタガタの場合もありますのでその時はどこまで修正しようか悩ましいところではあります。


ヒールも問題なし。


こちら側もOK。


弦長補正を施してありますが、個人的には補正していない方が潔くトラッドでかっこいいと思っています。あくまでも個人的には。


 

今回は新しめのD-28でしたがオールドとは随所随所に違うところがあり興味深かったですね。

新しいギターでも古いギターでも関係なく不具合は出てくるものです。環境や弦の張力、木材が動きやすいものや、ネックは強いけどボディが弱いとか、同じメーカー同じ年式でも個体差が必ずあります。最近流行りのカーボン製ギターなどは個体差が一切なく安定した工業製品として確立されていますが、、何でしょうか、、何というか、、個々の個性がないモノに人間は愛着が湧かないモノだと思っています。人間も、みんな同じ顔、同じ性格、同じ声だったら果たして愛すべきパートナーをどうやって見つければいいのでしょうか。。

童謡詩人の金子みすゞさんの「みんな違ってみんないい」という言葉が多くの人に響き続けています。ギターも同じで「みんな違ってみんないい」、そんなところに奥深さや面白さ、そしてロマンがあるのではないでしょうか。

どんなギターでも、他人が何と言おうとも、自分が良いと思ったギターは自信を持ってその個性を尊重し、付き合ってあげてほしいと思います。この世に完璧な人間がいないように、ギターも完璧なものはないと思っていて、そこがまた愛らしくも感じるのです。

今回も最後までありがとうございました。

 

トップ割れ修理 / Kamaka Tanor


 


 

ウクレレはギターと違って軽い分、倒したり落としたりした時も意外と無事な場合がありますが、今回はそうはならなかったようです。

ウクレレ専用のストラップの場合は、手を放してしまうとクルっと回って落ちる事があります。

ギターのようにストラップピンを付ける人や、穴を空けずにつけられる落ちないストラップや、独自の工夫をしてる人等、いろいろありますので不安な方は検討されてはいかがでしょうか。

 


 


 

 

 

こちらのウクレレは、演奏中に落ちたかは定かではありませんが、それはそうとして不幸中の幸いな部分は、こちらのトップ板は割れの跡が目立ち難いと言う事。

割れた跡が残らない修理は不可能ですが、スプルースやシダー等のように目立つことがありません。

ギターのトップの場合は、スプルースやシダーであることが多いので、割れてしまうとなかなか目立たない様には修理出来ません。

 

今回の破損とは違い、冬場の乾燥が原因で割れる事はよくありますが、これもとても難しい修理です。

乾燥状態は、割れている事にすぐ気が付きます。

何故なら木が縮んで割れて隙間があるからです。

この状態でしたら接着はとてもしやすくしっかり接着も出来ます。

しかし、季節が進み湿度が戻ると木も元の大きさに戻ります。

そうなると割れの隙間に入れた接着剤が邪魔になり木が歪む原因になります。

なので、工房の養生棚で割れの隙間が閉じるまで置いてから接着したいのですが、ピッタリ閉じていますので専用の工具を使っても上手く接着剤が入らない事もあります。

割れの修理は裏からクリートと呼ばれる割れ止めを貼りますが、それは気休めでしかありませんので冬に乾燥して木が縮めばまた割れが出ます。

 

湿度のバランスが取れている時は、割れはぴったり閉じていますので見た目、割れているようには見えない事もよくあります。

ギターを見るタイミングによっては割れは一切なく、過去に割れた形跡を特定する事も出来ない事もあります。

ピッタリついていれば究極、割れている事になりませんので冬場の乾燥にはお気をつけくださいませ。

 

サウンドホール割れ / Martin OOO-42EC


スタッフの山口です。

今回はよくあるといえばよくある修理、サウンドホールのめり込み割れです。割れた箇所がズレているのがわかりますね。

これも弦の張力によって起こる症状です。

アコースティックギターの天敵は「弦の張力」と「乾燥」であると言えます。


以前も割れて修理したっぽく、割れ止めらしき板がついていますね。周りの雰囲気からすると最初からついているものなのかもしれません。

 


しかし割れた部分はちょうど境目になっていて割れ止めの役目は果たせていないようです。赤く塗った部分は板が貼ってあった場所ですが今回は取り除き、新しい割れ止めを作製します。


サウンドホールのめり込み割れが起きる時は大体こちらのバスバーと呼ばれるブレイシングが剥がれていることが多いです。

アコースティックギターにとってのブレイシングは音色を司るのもそうですが、「割れ止め」という最大の役割があります。

修理屋に持ち込んだ時は今後のことも考えてブレイシング剥がれのチェックもしてもらうことをお勧めします。


写真には写っていませんが、、

ネックをジグで引っ張り、割れてズレた分を戻してスーパーグルーで接着します。

冒頭の画像と比較すると戻っているのが分かるかと思います。割れはジョイント部である14フレット付近まで伸びていました。


トップ板の割れが接着出来たらバスバーを接着します。


バスバーの接着が完了したらちゃんと役割を果たせる新しい割れ止めを製作します。材はスプルース、木目を垂直方向にします。


手前の割れ止めと、奥は接着時の当て木です。


タイトボンドで接着。


いい感じになりました。割れているラインに覆い被さっていますのでいくらかは強度が増したはずです。


めり込み時は大抵、ネックのアングルも狂っています。今回はネック角度が改善され許容される程度まで戻りましたのでネックは外さずにフレット擦り合わせのみ。


割れた部分が気になってベタベタ触ってしまうと修理後に跡が目立ちます。割れてしまった時はなるべく触らずに修理を依頼しましょう。


6弦側は1弦側に比べて目立たないで済みました。


アジャストロッド調整部に干渉しない厚みで割れ止めがついています。


Martinの40番台は指板の両脇にインレイを施すために掘り込んでいるため、その部分の板の厚みが薄くなります。当然、強度が落ちて割れやすくなっていると思います。

このデザインによって強度を落としていることはおそらくMartin社も把握しているはずですが、今更ここを変更することは彼らの伝統ある歴史とファンが許さないのだと思います。


 

初年度のMartin / OOO-42EC。エリッククラプトンがアンプラグドで使用した戦前のOOO-42を基に企画され販売されたモデルです。初年度モノは価格も上がり続けてるそうです。

 

 

アンプラグドといえば、僕が大好きなNIRVANAのKurt Cobainが使用したMartin / D-18E (1959年製)が、ギターの歴史上、最高値の6億円余りで落札された、というニュースが少し前にありました。アコギ好きでカートファンの僕としては史上最高値のギターがエレキではなくアコギであり、それがカートのギターであるということがとても嬉しいのです。

もう一つ、アンプラグドといえば、放送していたMTVとMartinのコラボモデル、MTV-1というモデルがあります。賛否が分かれるであろうサイドバックがマホガニーとインディアンローズの2トーンというイレギュラーな材構成。以前修理で当工房に来たことがありますが、個人的には結構良かった印象があります。もちろん、今回のOOO-42ECもとてもナイスギターでした♪

今回も最後までありがとうございました。

 

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