2025年10月

ロッド交換&ネックリセット&リフレット 後編 / Gibson Humming Bird 70’s


スタッフの山口です。

ロッド交換、ネックリセット、リフレットフルコンボの長編ブログも今日が最後です。すでに指板の修正は完了し、いざフレットうちに移ります。写真のボディに乗っている赤い物体はフレットバックと呼ばれるアコギリフレット用の道具になります。


バインディングがある指板ですがオーバーバインディングでフレットを打ち付けます。そのため、切ったフレットの端のタングは切り落とし、綺麗に仕上げておきます。


コンコンと地道にフレットを打ちます。フレットが浮かないよう、確認しながら進めますが、綺麗に打てたと思っても完璧には精度は出せませんので擦り合わせも行います。せっかく新しいフレットですので、その際になるべく擦る量を如何に減らすかが鍵となります。


フレット精度を出し終えたらフレットを整形しつつ磨いていきます。


色んな道具や工法を駆使していい仕上がりを目指しますが、この辺は工房や人によって流派のようなものがあると思います。


いい感じですね!


うん、いい感じです。


いい感じです。(3回目)


センターもバッチリ決まりました。


フレット交換をすると1フレットの高さももちろん高くなりますので特段の理由がない限りはナットも新調します。


ナットのブログは他にもたくさんあるので割愛します。


フレット交換は指板修正をした上にフレットの高さもバッチリ復活しますのでプレイアビリティは爆上がりします。ネックリセットも皆川流セットアップも加われば鬼に金棒なのです。


ブリッジの厚さが薄い年代ですので必然的にサドルの溝もそんなに深く取れませんので、強度的な理由からサドルは闇雲に高さを確保しない方がいいですし、何よりかっこいいですね。


ハミングバードやダブは元々スクエアショルダーのボディシェイブなので70年代でも違和感が少なく、面構えもいい感じですね。


大規模工事もこれにて完了。

リフレットはギターを長く使っていればいつかは必要になるメンテナンスのような位置付けですが、ロッド交換もネックリセットも保管状況、特に弾いていない時は弦を緩めることをしっかりと行っていれば早々必要になる修理ではありません。稀に弦を緩めていたらネックが動いてしまって使い物にならなくなった!というケースもなくはないですが、その場合、弦を張りっぱなしにしていたとしても同等かそれ以上のネックトラブルに見舞われていたでしょう。

完全な状態維持、管理は難しいですがトラブル、リスクを最小化するためにも、弾いていない時には「弦を緩めてあげる」「割れを起こさないように湿度が下がりすぎないようにする」ぐらいは愛機のために心懸けてあげてください。それでも困った時には東京は足立区に当工房がございますのでご相談いただけますと幸いです。

何卒よろしくお願い致します。

今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 

ロッド交換&ネックリセット&リフレット 中編 / Gibson Humming Bird 70’s


スタッフの山口です。

前編のロッド交換の続きですが、今回は主にネックリセット編です。新しいロッドの埋木をある程度ノミで削っていきます。


ネックの指板接地部分も綺麗にしていきます。


特殊だったロッド調整部も無事にGibsonらしくなりました。


指板が剥がしてある状態ですので、ダブテイルジョイント部を温める用の穴はいつもの指板上から開けるよりも容易です。それもあってロッド交換→ネックリセットはよくある組み合わせなのです。


よく見るとダブテイルジョイントの正面とボディとの隙間がなく、ピッタリなので、指板を剥がしていなかったら、穴あけ時にちゃんと狙ったところにあいているか不安になるパターンですね。


熱を加えてジョイントが緩んできました。


無事にバラシ完了、記念撮影。


狙い通りの部分に穴を開けられるので比較的効率良く熱が伝わり、ネックも短時間で外れました。


ここで指板接着。

ネックと指板の境目からタイトボンドがウニュウニュと溢れてきます。タイトボンドは後からある程度拭き取れますが、今のうちに綺麗に拭き取りましょう。


指板が元に戻り、ロッドのボルトナットを装着。いい感じですね!Gibson!


ダボを打っていてもネックと指板の境目は100%ツラが合う訳ではありませんのでサンディングで平らにします。その際に色が禿げる部分がありますのでタッチアップを施します。


全体的にオーバーラッカー塗装で塗装修正。


新品ではないのであくまでもその風合いにこだわって仕上げます。


ただただピカピカに鏡面仕上げにすれば良いわけではなく、ビンテージとして違和感のない程度にあの手この手、です。


ネック角度が決まるまで何度も組んでは外し、を繰り返しながら調整していきます。


センターズレのないように、また、角度はこの後リフレットをすることを考慮し、調弦した際に適正なネック角度になるようイメージしますが、個体ごとにネックの起き上がり方、反り方に微妙な差異がありますのでその辺が腕の見せ所なのだと思います。。


いい感じに角度も決まりいざ組込です!


今回はここまで。次回はリフレットで完了です。

これほどの時間をかけた大掛かりな修理は終盤から徐々に完成時が楽しみになります。見た目はもちろんですが、弾いてみて「サウンドがどうなのか」も楽しみなのです。そこが楽器修理の特権というかなんというか、醍醐味でもあるのです。

今回も最後までありがとうございました。

 

 

 

ロッド交換&ネックリセット&リフレット 前編 / Gibson Humming Bird 70’s


スタッフの山口です。

今回は70年代のハミングバードです。大掛かりな修理になるので3つに分けてアップしていきます。ロッド交換→ネックリセット→リフレットの順番で行うのが効率的です。


弦高はスケールを当てるまでもなく、一目で分かる程、激高です。ここまで状態がひどいものは大体角度狂い(元起き)に加え、ひどく順反りになっている場合がほとんどです。

 


サドルもまあ、こんな感じになっちゃってます。

ブリッジの厚みが薄いのは70年代ギブソンの仕様ですので問題ありません。


そしてフレットもぺったんこです。フレット交換時期はオーナー次第ですが今回はロッド交換で指板も剥がして指板修正も必要になりますのでリフレットします。

 

 

 


そして初めて見るこのロッド頭、、。

Gibsonとは思えない形状のロッド頭ですね。オリジナルと思われますが、まるでフェンダーから持ってきたのかという異様な感じがします。


まずは指板を剥がす前にナットを取り外し。

底面が癒着していて欠けちゃいましたがリフレットを予定していますので、どのみち新しいナットに交換になります。


指板の再接着のために数カ所にダボを仕込んだらハロゲン電球で温めながら指板を剥がしていきます。よく温めて、ネックの木目を読みながら慎重に。


無事に指板が剥がれました。上出来です。


古くなったロッドを取り出すために埋木を取り除いていきます。

 


全容が解明されました。太いロッド頭用に溝も広げられています。ワッシャーもナットから2cmほど入ったところに仕込まれているので、やはり製作された当初からこの仕様である可能性が高いですね。


頭部分を取り外して、、


まずは溝を綺麗にして加工していきます。


70年代のGibsonはリセールバリューが60年代ほどありませんのでなかなかこんなにコストをかけた修理は珍しく、色々と貴重な経験になります。


色々と綺麗にしたら記録としてパシャリ。

これが埋まっていたよ、という意味で。


本来のGibsonらしいロッドに変更するため溝をそれ用に加工します。


ロッドは個々のギターに合わせてガスバーナーを使って溶接します。


ロッドエンド完成!


今回は元の溝がほんの少しだけ広いので腐食防止のラバーを履かせることができました。


溝のRに合わせて埋木を製作。


また何十年後かにお目見えするであろうロッド君に別れを告げます。


埋木完了!

正直なところ、ロッド交換は指板を貼るまでちゃんと機能するか分からない部分もありますので、ある程度想像でシュミレーションしなければなりません。

 

今回のギターはロッドでなんとか弦高を下げようとして締め切られていました。

ロッド調整は弦高を下げる目的として行うものだと間違えて捉えている人が世の中には非常に多い気がします。ネックの状態を見ずに、「弦高上がってる!→よし!ロッド調整だ!」みたいな感じ。

アジャストロッドの本来の目的はネックの補強に加えて、「ネックの反りを調整するもの」ですので、「弦高を下げる」目的ではありません。アジャストロッドでネックを正しくリリース調整し、弦高はサドルの高さで調整をします。

弦高が高いな、、と感じたら、原因の所在及びトータルで正しい調整ができる人に見てもらうことをお勧めします。

次回はネックリセットからお届けいたします。

今回も最後までありがとうございました。

 

ボディ割れ修理 / Gibson J-160E


 


 


 

Gibson J-16Eのボディ割れ修理でございます。

お預かりの際に聞いたかもしれませんが、大分前の事で忘れております、何か角のあるようなところに落としてしまったのかもしれません。

これは所有者は大変ショックかと思いますが、不幸中の幸いとでも言いましょうか、トップでなくてまだよかったのではないかと、少し思います。

ギターの場合、正面はスプルースやシダー等が使われることが多く、シースルー部分は跡が目立ってしまいます。

 

 

 


色が飛んでしまっている所は


塗装前に筆で

タッチアップして

割れ跡が多少でも目立たないように色は少し濃く塗装してあります。

ですが、最近は割れ跡が見えてしまっても、最後に少し濃くしない方が返ってきれいかなと感じたりします。

きれいに出来ているか、イマイチか否かは完全に主観なので正解が分かりません。

こういった好みの部分は年齢によって変わっていくものなのでしょうか…。

 

文句ない仕上げとしては、サイド片側全体リフィニッシュすれば、きれいに修正出来ると思いますが修理代が高くなってしまいます。

どっちが良いのでしょうか、修理代は倍以上になってしまいますから、高くない方が良いと思ってやっておりますが…

そう思いつつ、ネック折れ修理なんかでは、ネック全体塗り直している修理屋さんもありますし…

 

 


見方によってそれ程、濃く無く見えます。


内側から補強。


J-160Eでした。

私の場合、修理の鉄則は、「わざわざ広げない」「難しくしない」と教わって来ましたので、それは根付いていると思っておりますが、ついつい考え込んでしまいます。

不惑の四十は、当の昔に通り過ぎたのに、未だに迷いがあります。

「よそはよそうちはうち」と思いつつ、よそはどうやっているのかな?

等と気になったりします。