2025年08月

ネックリセット&リフレット / Gibson Humming Bird


スタッフの山口です。

今回はネックリセット&リフレットのゴールデンコンボです。長いスケールを当てている写真からもわかるように12フレット上に隙間ができています。

費用もかかりますがその分、オーナー様の満足度も高い修理のコンボ。ちなみに同時に行う場合は工程上、手間も少し省けるので別々で行う場合の料金よりも1万円程お安くなります。

 

 


ネックの元起きも反りも併発しており、写真でも大きく変形しているのがわかると思います。


指板が浮き上がって見えるのは長年の弦の張力で角度が狂い、ネックが起き上がってくの字になっているからそう見えるのです。

このアングルの写真でも見て分かる=相当な重症です。


トップから指板を剥がしてから


ダブテイルジョイントに熱を加えます。


格闘の末、ノックダウン。


勝利の記念撮影。

ネックをトラブルなく外すことができるとホッとします。Gibson、Martinはワンピースネックが当たり前ですが、そうじゃない場合はつなぎの接着部分も温められて分離してしまうこともあります。

 


シリアルが消えていないことからこの個体は初ネックリセットと思われます。


ネックの角度を適正に調整したらシムを製作。ダブテイルジョイントをグッと押し込んだ時の感覚と音で木工精度を把握しながら厚みやテーパー具合を微調整。

シム製作は実は手間と経験が必要とする重要な工程です。手でグッと押し込み、さらにクランプの良い塩梅の力加減でしっかりと強固に組み込めるのが理想的です。


いざ接着。


無事に組込接着ができたらフレット交換。指板修正をしますのでアジャストロッドを少し緩めて締めシロに余裕を作っておきます。


フレット抜いて、、


こんな感じで。良い感じに。

指板に長年の押弦による凹みが見えます。あくまでもフレット溝の部分がしっかり修正できていればわざわざこの跡が消えるまで削りません。

この凹みは残ってた方がビンテージはかっこいいです。もちろん修正して消えちゃう時もあります。


いきなりここでフレット交換完了。

本当は何枚も画像ありますが割愛。


ナットも1フレットの高さに合わせて新調します。皆川ギター工房のリフレット料金には指板修正もナット交換も含まれています。

お店によっては別途費用がかかるケースも多々あるのでご注意ください。


アジャスタブルサドルも凛々しく見える高さに回復。


ギタリストなら一目でわかる弾きやすそうな低めの良い弦高です。


Gibsonはリセット時にヒールが少し飛び出ることがあります。


こうして見ると結構出てます。

しっかり奥まで組み込まれた証でもあります。


ロゴがギリギリのタイプ。この時代のハミングバードでは結構見られる気がします。


オリジナルのペグボタン、雰囲気がかっこいいです。


 

ハミングバードは初年度の1960年からロングスケールで作られていましたが、90年代に所謂リイシューされたものは現在に至るまでJ-45と同じギブソンスケール(628mm)になっています。 

60年代のリイシューとして再生産をスタートしたのになぜ大きくスケールを変えたのかわかりませんが、オリジナルのロングスケールはやはり迫力のある「ハミングバード」の音がします。現行品も名前は一緒ですが別物、という印象は拭えません。

一方、Doveは初年度から現在に至るまでちゃんとロングスケール。

何か理由があるとすればなんでしょう、、。

60年代前期のハミングバードは特に人気が高いので本当に手が届かない価格になってしまいました。先日70年代のハミングバードを修理しましたが、それもとてもナイスギターでした。どちらもピックガードに描かれたハチドリ(Humming Bird)が影響しているのかもしれません。信じるか信じないかは、、、今日も最後までありがとうございました。

 

 

フレット交換 / Ovation 1687-8


古い


Adamasの


ネックリセット。

一番古いタイプの次の世代のアダマス。

このタイプまではトップ上の指板は接着していませんでした。

フローティングしたまま浮いている状態、ですので指板がフニャフニャしないようにか、音に多少でも芯が入るようにか、カーボン素材が埋め込んであるのだと思います。

このフローティング具合(隙間の幅)は個体差があって、接着されていない為、物によっては共振の原因になる事がありました。

上の画像を見ますと、接着してある跡があります。

何らかの理由で後から接着された物かと思います。

 

 

フローティングしている為、ネックをセットしたままフレットを打つことが出来ません。

ネックは外した状態で新しいフレットを打ちます。(過去ブログに画像があったと思います。)

 


 


 

Ovation は色々面倒な事が多いのですがアダマスの場合、面倒その1は、ヘッドの飾り。

ナット調整の際にヤスリが触れてしまいます。

ナットはセットした状態で調整し、弦を張って確かめます。

かなり細かい作業です、ちょっと削って、弦を張って見て、ちょっと削って、弦を張って見て、これを何度も繰り返します。

通常ならセットした状態でこの繰り返しが出来るのですが、こいつはヤスリが当たってしまう為、いちいち外して、作業を繰り返します。

私の場合、Ovation は大昔からの付き合いで慣れてはいますけど、それでもめんどくせーですから、他の修理屋さんもさぞかし面倒臭かろう存じます。

 

 


 

これを始めて見たのは、南こうせつが弾いていたのを見たのが初めてでした。

「なんだこれ?大体ギターのようだけど、ギターなのかしら?」

あれから45年以上たったかとおもいますが…。

当時は情報が少なくて、雑誌位しか無かったかと思います。

新しいギターの事や、エレキを持ち始めた頃等は、「どうやってロックの音に(歪み)出来るんだ?」

とか、分かんないことだらけでした。

今では、何でもすぐにわかる事が出来ます。

良い事のような、良くない事のような。

 

トップ割れ / YAMAHA ダイナミックギター


スタッフの山口です。

お盆休みに里帰りをして押し入れの奥からこんなギターが出てきた、という方もいるかもしれません。

今回はそんなYAMAHAのダイナミックギターのトップ割れ修理です。


冒頭写真のようにすぐに蒸発する&塗装にも影響しないため、Zippoオイルを垂らして割れてる箇所や範囲を確認します。


今回は指板の両脇とくびれ部分に割れを確認しましたのでそこを修理します。


指板両脇は構造的に弦の張力がかかる場所ですので割れと同時に補強の意味も込めていつもよりしっかりとした割れどめを作りました。ブリッジプレートに使われることの多いメープルですね。


ボンドは表から注入しますが今回は古い割れ跡ということと、場所的にもあ限界があります。


そのためにも裏面からしっかりサポートしてあげるわけです。


しっかりとクランプをかけて一日置きます。


いい感じです。


「ここは修理してあるよー」というメッセージが込められています。


最後の我はくびれのそばです。ここは平面ですので「吸盤型接着剤送込器」が使えます。


たった今、命名しました「吸盤型接着剤送込器」は、空気圧を使ってタイトボンドを割れの奥まで送り込みます。


裏から見てこんな感じで白いボンドが出てくればOK。


元々がトップと指板の境目なのであまり気にならないかと思います。


もし跡が残っていても目立たなくしようと塗装修正や小細工をすると余計に目立ったり変な感じになったりします。

「なるべく余計なことはせずシンプルに」師匠から教えです♪


ダイナミックギター、今となっては時代を感じられるいいネーミングなのではないかと思います。そもそも「ダイナミック」という言葉が1960年代の日本では使われてなかった可能性もありますね。

きっと当時の日本ではまだ珍しい鉄弦のギターなのでガットに比べて「ダイナミック!」な音に感じられたYAMAHAの中堅社員が命名したのは容易に想像がつきます。

それに比べて今回僕が命名した「吸盤型接着剤送込器」は全くセンスも可能性も感じられないので取りやめようと思います。

今回も最後でありがとうございました。

 

 

ボディ割れ修理 / YAMAHA LL-31B


ケースを箱に入れて発送しても


少し強めにドンと置かれた場合は、

しっかりクッションが入ってないと、薄いケースでは守られません。

運送中、ライブの準備中、等に時に起きがちなアクシデント。

エンドピン部分に力が掛かった場合は、このようにボトム部が割れる事がよくあります。

現在の物は分かりませんが、ヤマハのケースは底が薄いのでケースに入っていても気を付けなくてはなりません。

 

 

接着剤を流し入れたら

出来る限り段が残らないように密着させます。

ケースに入っていてもネックが折れる事もあり、ヤマハのケースでなくても気を付ける事は同じです。

ケースがしっかりしているので倒れても大丈夫だと思いがちですが、大概のケースはヘッド部分はフリーです。

ヘッドはペグが付いており結構な重量があります。

更に弦をチューニングしたままの場合では、約70㎏の張力が掛かった状態ですので何らかの影響が出る確率が更に高まります。

 

 


いつも言いますが


茶色ボディの黒杢目は


跡が馴染みやすい。

 


 

「いつも大丈夫だから。」と思わずに大事なギターでしたら用心してくださいね!

運送する際、日頃の管理、ライブの時等、いつも大丈夫だったけど皆さん1回大丈夫でなくなった時から、気を付けます。

その1回があった為に、「次のギターからずっと大丈夫です。」確かに学びは大事です。

でも良くない事は1回も無い方が良いですから。

修理屋にお越しになる方は大概は、一期一会。

しかし中には何度も大丈夫でなかった事が起きる人もいますが、「なんかあったらそん時また直せばよい!」

という考えもあるかもしれませんね。

 

 

 

ネックリセット&リフレット / Martin OOO-18


スタッフの山口です。

本日もネックリセットからスタートです。ブログの「山口くんのページ」カテゴリーを選択していただければネックリセットばかり出てくると思います。


もちろんネックリセット以外の修理もやらせていただいてますが、写真を撮り忘れてしまうことが多い中、なぜかネックリセットの時は撮り忘れない、という不思議な現象が起きています。


過去のブログでたくさん説明していますのでネックの取り外しサクッと。

恒例の記念撮影。


古い接着剤を取り除きます。今回は古傷が開いたようなのでもちろん修理してあげます。


接着剤を取り除いてきれいになっています。


前回の修理では割れ止めが無かったようなので、古傷を再接着と同時に山口式の割れ止めを設置。

この形の割れ止めはサウンドホール周りの場合、有効な手段ではないかと思います。


角度を修正し合体しました。


ダブテイルジョイント部に通じる穴を埋めます。


フレット交換は指板修正をしますのでナットは外します。今回の個体は象牙ナットですので再利用しようと思います。


紙の底上げがついていました。

きっと前回の時も象牙だから、と再利用するために底上げで対応したのでしょう。

ナットが底上げされていることは特に珍しいことではありません。


指板修正はただ真っ直ぐに削るだけではいけません。ネックの状態や調弦した時のネックの動き具合を考慮し、どの部分をどれだけ削り、逆にどこをなるべく削らないようにするのか、角度はどうか、指板のRはきれいに出ているか、インレイの貝の厚みはまだ余裕があるのかなどなど、あげたらキリがないほど気を使い、汗をかく工程です。


もし指板修正をただ真っ直ぐに削るだけだと、良いプレイアビリティを生み出せないことはもちろん、ハカランダなど貴重な指板材を必要以上に削り落としてしまうことになります。

指板修正は修正作業時のイメージ、そして自分の感覚がとても重要になります。


フレット準備中。


玄能でコンコン打ちます。力任せに打っても綺麗に打つことができません。

 


はみ出たフレットをカットします。


フレットのエッジを落とします。


フレットエッジを綺麗にまっすぐ落とすのも経験と感覚、頭の中でイメージしながら行うことが重要です。


約1時間ほどかけてフレットを磨いていきます。


フレットが完了し、ナットの底上げも完了。


いい感じです。


フレットのてっぺんと左右がビシッとまっすぐに揃っていればヨシ。フレットエッジが描く直線はプレーヤーはあまり気にしないところですが、いざそれを気にする人が見た時に「うむ」と言わせたいのです。

もちろんある程度の精度ならプレイアビリティに影響は出ませんが、、こういうところにこそ、こだわりが詰まっています。


15フレットに開けた穴はどこでしょう。ローズウッドは埋木跡がわかることが多いですが、今回のようにうまく馴染むとニヤケ顔になります。


弦高もいい感じになり、


サドルも狙い通りの高過ぎず低過ぎず。

 


ネック角度もフレットも見違えるように蘇りました♪


年相応の深みのある面構えですがとても綺麗なお顔ですね!


このルックスで音もナイスギターじゃない訳がありません。


 

ブラジリアンローズウッド特有の木目や質感はやっぱりいいですね!

噂ではブラジル政府は本当は少し前からハカランダを解禁したいとか。1969年のワシントン条約から既に50年以上経過している訳ですから可能性は充分にあるとは思いますが、「希少性」の観点からビンテージギター業界はそれを良く思わない可能性もあります。

ダイヤモンドは採掘量に対してわざと流通を制限して価値を押し上げることに成功してきた、という逸話がありますが、ハカランダを解禁するとしても出荷量をうまくコントロールすることができるのであれば価値の暴落はそうそう起こらないと思いますので、環境保護問題をクリアできるならぜひ解禁してほしいなと思います。

先日ハカランダブリッジ材がとうとう在庫がほぼなくなりまして、師匠皆川と色々当たって探したりしていましたが手に入らない状況が続いています。そんな中、質の良いココボロがネットに転がっていましたので「ブリッジ材の良さそうだ」となり、試しに仕入れてみました。質感はやはりハカランダとは違いますが、仕上がったブリッジは一見、ハカランダの要素はあっていい感じでした。(写真参照)

インディアンローズもまだストックがありますが、ブリッジ交換の際はココボロも承れますのでぜひご相談ください。

今回も最後までありがとうございました。