スタッフブログ

フレット交換&ピックガード矯正 / Martin D-28 (1950)


スタッフの山口です。

暑くなったり寒くなったりで人もアコギにとっても体調を崩しやすい時期です。

写真のD-28君も具合が悪そうなので治療していきましょう。


ピックガードが硬く反り返って剥がれてしまっています。通常は交換をお勧めしたい状態ですが、オーナー様のご希望でオリジナルのピックガードを再生して残したいとのことなのでなんとか矯正して戻したいと思います。


今回は他の修理もあるのでそっちを進める間、ずっと矯正しておきます。


そしてブリッジを剥がします。

ブリッジを剥がした理由は、、


恐らくマスキング無しのワイルドなオーバーラッカーでブリッジがテカテカになっていたから。綺麗に剥がすにはトップ材についたままでは不可能なので。


ラッカー塗装を除去して本来のブリッジになりました。

ピックガードが硬く反り返ったのもマスキング無しのオーバーラッカーが原因でしょう。


ブリッジを元に戻したら、


フレット交換です。

フレット交換時には指板修正も行います。

写真のように長年握り込んで押弦した跡、凹みが消えるまで削る必要はありません。

あくまでもフレット溝部がしっかりと修正できていればヨシ。むしろ70年かけて作られたこのナチュラルな凹みはルックス的にも残したい。


当工房ではフレット打ちを昔ながらの玄能でコンコンやります。

師匠が弟子入り間もなかった僕にフレットプレスを買ってくれましたが、結局アコギにはヒール周りなどに使えないので、今はエレキ担当のT君がフェンダー系にたまに使うくらいです。


フレット交換は各工房や職人により工程も仕上がりも本当に様々です。

 

一般的なメンテナンスの一つですが、経験と技量、根気とこだわりなど全てが現れるのがフレット交換なのです。


フレットのエッジは立てますがチクチクしないよう一本一本丁寧に丸めます。どこを見ても同じ丸みと形にできれば理想的です。


フレット交換後はナットとサドルを新調します。


オールドマーチンは底面が突板と同じ傾斜が付いていますので加工の難易度がアップします。近年は指板と同じ平らな底面になっています。


ナットやサドル、ブリッジなどのディティールは幾多のヴィンテージギターを見て、修理してきた皆川氏のこだわりが詰まっています。

100点をもらえた時はとても嬉しいですが、そうで無い時はやはり悔しいです。


マーチンのナット溝は外側から2.75mmくらいが理想的です。ギブソンは気持ち外側です。


元のナットよりはマーチンのナットっぽいですね。


最後はしばらく矯正していたピックガードを戻しましょう。


専用ジグで接着。


ヌルヌル滑りますのでタイトボンドでピッタリと元の位置につけるのは意外と難易度高いです。


ナットも指板もフレットも良い感じでは無いでしょうか。


ブリッジも余計なお化粧を落とし本来のすっぴんに。


1950年製のMartin D-28。

仕様においても音色にしても最近はやはり「D-28が至高」と言われてきたことに納得することが多いです。もちろん好みは人それぞれですが。


ピックガードもピカピカよりこっちの方がいいとなりあえてこの感じで。

 


 

先日NHKで福山雅治さんが所有する1940年製D-45をマーチン本社に修理依頼するという企画を軸として、マーチンの歴史や本家としての伝統を重んじる気概やこだわりを紹介する番組が放送されていました。修理方法や引退したマーチン職人の「計測は2度、切るのは一度」という言葉など印象的でとても興味深く、勉強になりました。

僕の師匠のさらにその師匠にあたる大先輩が何十年も前に本家マーチン社でその伝統的な修理方法を学び、日本に持ち込んだ、という話を皆川氏から聞いたことがあります。マーチンのスピリットが日本で世代を超えて受け継がれ、そしてちゃんとこの僕自身にも受け継がれていると思いました。自分ももっと経験を積み、学び、そして技術を磨き、それを次の世代に伝えることの大切さなど、勝手にその壮大な使命を感じました。

番組後半に福山雅治さんが「この貴重なギターを僕が所有することで、この音をレコーディングやライブを通して皆さんとも共有していきたい」的なことを言っていたのがとても好感が持てましたね!

ということで最後は少し話が外れてしまいましたが、今回も最後までご覧いただきありがとうございました。