山口君のページ

サウンドホール割れ / Martin OOO-42EC


スタッフの山口です。

今回はよくあるといえばよくある修理、サウンドホールのめり込み割れです。割れた箇所がズレているのがわかりますね。

これも弦の張力によって起こる症状です。

アコースティックギターの天敵は「弦の張力」と「乾燥」であると言えます。


以前も割れて修理したっぽく、割れ止めらしき板がついていますね。周りの雰囲気からすると最初からついているものなのかもしれません。

 


しかし割れた部分はちょうど境目になっていて割れ止めの役目は果たせていないようです。赤く塗った部分は板が貼ってあった場所ですが今回は取り除き、新しい割れ止めを作製します。


サウンドホールのめり込み割れが起きる時は大体こちらのバスバーと呼ばれるブレイシングが剥がれていることが多いです。

アコースティックギターにとってのブレイシングは音色を司るのもそうですが、「割れ止め」という最大の役割があります。

修理屋に持ち込んだ時は今後のことも考えてブレイシング剥がれのチェックもしてもらうことをお勧めします。


写真には写っていませんが、、

ネックをジグで引っ張り、割れてズレた分を戻してスーパーグルーで接着します。

冒頭の画像と比較すると戻っているのが分かるかと思います。割れはジョイント部である14フレット付近まで伸びていました。


トップ板の割れが接着出来たらバスバーを接着します。


バスバーの接着が完了したらちゃんと役割を果たせる新しい割れ止めを製作します。材はスプルース、木目を垂直方向にします。


手前の割れ止めと、奥は接着時の当て木です。


タイトボンドで接着。


いい感じになりました。割れているラインに覆い被さっていますのでいくらかは強度が増したはずです。


めり込み時は大抵、ネックのアングルも狂っています。今回はネック角度が改善され許容される程度まで戻りましたのでネックは外さずにフレット擦り合わせのみ。


割れた部分が気になってベタベタ触ってしまうと修理後に跡が目立ちます。割れてしまった時はなるべく触らずに修理を依頼しましょう。


6弦側は1弦側に比べて目立たないで済みました。


アジャストロッド調整部に干渉しない厚みで割れ止めがついています。


Martinの40番台は指板の両脇にインレイを施すために掘り込んでいるため、その部分の板の厚みが薄くなります。当然、強度が落ちて割れやすくなっていると思います。

このデザインによって強度を落としていることはおそらくMartin社も把握しているはずですが、今更ここを変更することは彼らの伝統ある歴史とファンが許さないのだと思います。


 

初年度のMartin / OOO-42EC。エリッククラプトンがアンプラグドで使用した戦前のOOO-42を基に企画され販売されたモデルです。初年度モノは価格も上がり続けてるそうです。

 

 

アンプラグドといえば、僕が大好きなNIRVANAのKurt Cobainが使用したMartin / D-18E (1959年製)が、ギターの歴史上、最高値の6億円余りで落札された、というニュースが少し前にありました。アコギ好きでカートファンの僕としては史上最高値のギターがエレキではなくアコギであり、それがカートのギターであるということがとても嬉しいのです。

もう一つ、アンプラグドといえば、放送していたMTVとMartinのコラボモデル、MTV-1というモデルがあります。賛否が分かれるであろうサイドバックがマホガニーとインディアンローズの2トーンというイレギュラーな材構成。以前修理で当工房に来たことがありますが、個人的には結構良かった印象があります。もちろん、今回のOOO-42ECもとてもナイスギターでした♪

今回も最後までありがとうございました。

 

ネックリセット&バーフレット→ラウンドフレット交換 / Martin 0-18K(1924)


スタッフの山口です。

博物館にあってもおかしくないようなギターが横たわっています。 1923年製造のMartin 0-18K、オールハワイアンコアのモデルです。今回はこちらのネックリセットとフレット交換を見ていきます。


ネックの順反り加減が写真でもよくわかります。写真でも分かる、ということは重症です。

ネックの角度も狂っていますので仕込み角度を適正にする+フレット交換に合わせて指板修正、このコンボで弾きやすくまだまだ使えるギターにしていきましょう。


弦高は4mmほど。

この写真でお気づきになるかと思いますが、フレットに違和感がありますね。1934年より前はこんな感じの単なる棒状、つまりバーフレットしかありませんでした。オリジナルを重視するなら同じバーフレットを何とか残しますが、実用的に使用するならやはり通常のT型のラウンドフレットが宜しいかと思います。

今回もオーナーの要望で普通のラウンドフレットに交換します。


今は同じバーフレットの打ち替えは基本的にお断りしています。打つのも大変だから高くつくしプレーヤーは弾きづらいし、メンテナンスもこれまた大変。いいところは一つもありません。


いつものように指板を剥がしていきます。

この時代の特徴なのか100年間の間に削られてこうなったのかはわかりませんが、指板がとても薄いため終始慎重に進めます。下手すると簡単にパキッと逝ってしまいます。


無事にネックが外れました。ダブテイルジョイント部にメイプルのシムが挟まっています。流石に100年の間にネックは何度かリセットされているようです。


1920年代にはタイトボンドではなくニカワ接着されているため、写真の通りタイトボンドが使われていることからもネックリセット経験済みの個体ですね。


いつものアングルで記念撮影。


シムは新しく作り直すので削ぎ落とします。溝に残った古い接着剤も根こそぎ綺麗に掃除します。


角度の修正幅が大きい場合はヒールの内側をある程度予測してノミで削ります。


ノミはよく研いでおき、力を入れずに優しく扱わないといけません。。

そういつも自分に言い聞かせます。


ネックが無事ついたらバーフレットを抜いて溝を整えていきます。このままの溝だと太過ぎてフレットを打つことができません。

(ネックリセット中はいつも写真を撮り忘れます。)


溝はこの縞黒檀の薄板を使います。


こんな感じで薄さなどを調整しながら1本の溝に薄板を2枚。あとで2枚の薄板の間に溝を掘り直してフレットを打てば、元の溝の中心にフレットを打てますのでピッチが狂うこともありません。


余計な部分は上も横もカット。


調弦時にネックが真っ直ぐになるように指板をサンディングで修正したら、、


普通のラウンドフレットを打ちます。

ここまででかなりの時間を要します。


ナットは新しいフレットの高さに合わせて新調します。


フレットが変わると顔つきも現代的に変わりますね。


サドルの高さもいい感じになりました。


もちろんですが、センターズレも無し。


ヒールも隙間などはなく、塗装修正もしていませんが綺麗に仕上がりました。


こちら側もOK。


均一に鮮やかにフレイムの杢が出た素晴らしいハワイアンコアですね。ここまでびっしりと杢が出た個体はなかなかお目にかかれません。もちろんサウンドも素晴らしく、ため息が出ちゃいます。


 

1924年製、101歳のギターです。今回のリペアによって状態も良くなり、素晴らしいコンディションで現役続行です。今後も誰かの手によってリペアされながらギターとして100年後も存在していることを願います。

ハワイアンコアは正式名称はアカシアコア。ハワイ原産のアカシアコアは吹き付ける海風によって木がしなって綺麗なフレイム模様が入ることからハワイ産のアカシアコアに限って「ハワイアンコア」と特別に呼ばれるそうです。ハワイ以外のアカシアコアは一般的にコア、やアカシアコアと言われるそうです。

自宅にホームセンターで買った「アカシア」で自作したチェストがありますが、あれはコアとも書かれていないし、産地も不明、、ネットで検索するとニセアカシアと言う何とも失礼な名付けをされた樹種もありました。

 

 


 

当工房には師匠皆川が長年かけて集めたギターに関わる書物が何十冊もありますが、中でも自分が好きなのがこの木材活用ハンドブック。

この木材でベンチを作りたいな、あ、こっちの材も良さそうだなー。床はこの木材でフローリングにして、、テーブルはこれで1枚板にして、、そんな妄想をしてしまいます。

母方の実家が木材店で父親は木工職人なのでその血が騒ぐのだと思います。

でも、ギターではなく家具や自宅の内装などの想像ばかりするのは音響特性を気にしなくていいからでしょうか。。。

 

今回も最後までご覧いただきありがとうございました。

 

 

フレット交換 / Gibson CF-100


スタッフの山口です。

今回はGibsonフローレンタインカッタウェイ、CF-100のフレット交換です。

フレットは Made in USAのニッケルシルバーを打っていきます。材質は高さ、幅などは数種類の中からお選びいただけます。

 


指板の幅よりも少し広くフレットをカットします。


ネックバインディングがありますので写真のように両端のタングをカットする必要があります。


専用カッターでタングの端を切り落としたら、、


やすりでタングの残りを削り平らにします。素手でやるとフレットを押さえつける左手が痛くなるので手袋してます。


アールは指板よりもキツめにします。

タングの端もキレイになってフレット打ちの準備完了です。


肝心の打っている途中を全カットです。(撮り忘れ)


フレットの端は斜めに落とさず極力立てて、チクチクしないように丁寧に丸めてあげるのが皆川流です。


交換前からオーバーバインディングでしたが、フレットバインディングが残っている場合も基本的にオーバーバインディングでフレット交換します。

 


フレット磨きまで終えたらナットを新調してサドルを調整して出来上がり。


Gibsonは指板幅に対して目一杯外側に弦を通しますので斜めに落としすぎると弦落ち確率アップしちゃいます。


ヴィンテージギターのフレットは磨きまくってピカピカすぎるより適度に磨いている程度の方が質感がかっこいいと思います。

CF-100は個人的にGibsonのイケメン枠です。

ヴィンテージの貫禄がある姿にフローレンタインカッタウェイ、これは萌えます。。

ヴァイオリンもチェロも全て同じようなルックスをしてますが、ギターのルックス、デザインは本当に多岐に渡りますよね。見た目だけでも買ってしまう楽器ってギターくらいじゃないでしょうか。

 

ファッションとして、楽器として、とにかくギターっていろんな選び方、楽しみ方があってすごいな、、とつくづく思う今日この頃です。

今回も最後までありがとうございました。

 

 

 

ネックリセット&リフレット / Martin O-18


スタッフの山口です。

今回は最近滅多にお目にかかれなくなったオールドのMartin O-18のネックリセットとネックリセットとセットだと1万円引きでお得になるリフレット(フレット交換)です。


弦高を調整するサドルが限界です。

よくあるブリッジを削っちゃった、ということは今回はないようです。

 


トップに養生をして指板のハイフレット付近、トップに乗っかっている部分を温めます。


熱々でニカワまたはタイトボンドが軟化すればこのようにナイフを入れることができます。


15フレットを抜いて開けた穴にヒートスティックを差し込み、今度はダブテイルジョイントの接合部を温めます。

穴を開けることにびっくりする方もいると思いますが、マーチン社に持ち込んで修理したとしても同じように15フレットに穴を開けられちゃいます。むしろMartinは修理ができるように設計していて、わざとダブテイル部分に少しだけ隙間が作られています。


無事にネックが外れて恒例の記念撮影。

指板もこれ以上なく綺麗に剥がれました。


ネック角度を修正した分、傾斜をつけたエボニーの薄板を貼り合わせて底上げします。「くの字」で元起きしている場合はこれが不要の場合が多く、ジョイント部付近のトップが沈んでいるケースではこれが必要になることが多いです。


少し飛んで、ネックが無事についたらリフレットに移ります。


フレットのエッジ落としは個人的には勝負所の工程です。斜めに落としすぎるのは皆川ギター工房では御法度です。


また少し飛んで、、フレット交換で高さが復活したら元のナットは低すぎますので新調します。


弦間、形状ともにMartinの特徴を捉えたナットになりました。

ブリッジ同様、ナットにはそれぞれのメーカーに合ったディテールがあります。MartinにGibsonみたいなナットがついているのはとても違和感を覚えます。

先日Gibsonによくあるジャンボフレットが打ってあるMartinを拝見しましたが、それもとても違和感がありました。


弦高も2.5mmになり弾きやすくなりました。


ロングサドルは特に高くなりすぎないようにネック角度を調整する必要があります。ロングサドルブリッジの構造上、高すぎるサドルはブリッジの割れを招く確率を大幅にアップさせてしまいます。


センターもバッチリ、、


6弦側のヒールもバッチリ、、


1弦側のヒールもバッチリです。綺麗に仕上がりました♪


小ぶりなのに圧倒的な貫禄。

家のソファで弾くならこれに勝るギターは無いのでは無いでしょうか。

かっこいい!

ネックが長年の弦の力によって起き上がってくる「元起き」には、14フレットで「くの字」になっている場合と、指板がトップに沈み込む場合の2パターンがあります。指板がトップより強ければトップが沈み、トップ(ブレーシング含む)の方が強い場合は14フレットを起点に「くの字」になります。一般的に「くの字」の場合は目で見れば元起き症状として判断しやすいと思いますが、トップが沈んで角度が狂っている場合はその症状から元起きと判断するのは素人目には分かりづらいかと思います。

元起きはアコースティックギターの宿命と言われてきたことから、これまで多くのメーカーや製作家が、弦の張力に負けないよう、ネックブロック周りを強化した設計にチャレンジしてきました。でもネックブロック周りが強いから安心、、かと思いきや、余裕で元起きしてたりします。

アコギの場合は特に顕著ですが、弦の力による不具合はそのギターの弱いところに発生します。ネックが反らない、強いネックだから、と安心しても、弦を張りっぱなしにすれば、ネックに不具合が出なくても、その分他の場所(ブリッジやトップ)に不具合が出ます。

僕の相棒のMartin君は毎回しっかり弦を緩めているのでここ10年、コンディションの変化が一才ありません。至って良好。

「弦を張っておかないと逆反りする」、というオカルトがネット上では散見されますが、しっかりシーズニングされている木材で作られているギターであれば、弦を緩めたことで逆反りしちゃう、なんてことはありません。もし弦を緩めたことでトラスロッドに関係なく逆反りしちゃうようなギターであれば、そもそもそれはハズレのギターです。

いつもと同じ結びになりますが、弾かない時はなるべく弦を緩めましょう。

今回も最後までありがとうございました。

ジャック周りの割れ修理 / Gibson CF-100E


スタッフの山口です。今回はジャック周りがグダグダになったCF-100Eの修理です。

写真の通り、ピックガード用のセルロイドか何かで長年誤魔化してあったようです。


アッセンブリーをしばらく外しておきますが、外す前にどのようであったかを必ず写真を撮っておきます。


セルロイド板を外してみたらこんな感じでした。


一応、補強はしてあるようですが、もちろんこちらも新しくします。


まずは嵌め込む板の寸法を決めて穴を長方形に整えます。


四隅をドリルで開けてから、


ミニのこで切り取り、


やすりで綺麗な長方形にします。


ここでマホガニーの補強を4枚用意します。長さはボディ厚の内寸で作りました。


ここに補強を2枚、内側から貼ります。


こんな感じで一日置きます。


こんな感じになりました。


同じように残りの2枚の補強を中心部に貼りもう1日経過しました。


ここからは長方形の穴にピッタリに用意したサイド板を貼っていきます。


1mm厚の板を3枚重ねて3mmくらい、ツラが合いましたね。


先ほど映っていたけどスルーしたジグはこのように使います。


内側からみるとこうなってます。


ペグを巻いて内側と外側から挟み討ちで圧力をかけて接着させます。


1日経過しました。


しっかりと蓋ができたようです。


あとは塗装を切りのいいところまで剥がして、、


こんな感じに。


木目を合わせたり描いたりします。


着色前だとこの写真のように見て分かりますが、このあと着色すれば意外と気が付かないと思います。

最後は着色とラッカートップコートで完了です。(写真見つからずここで終了)汗

 


 

修理屋は写真のような専用ジグを必要とします。どうしてもサイズや修理箇所が毎回違いますので、そのほとんどが自作になります。

ジグ作りはその時の修理一回のために作ることもあり、とても面倒なことではあるのですが、もし優秀なジグが完成できれば、その時点で修理の半分は終わったようなものです。それだけ修理屋にとってジグを考え、作り出すことは大切なスキルの一つであると言えます。

このペグを使ったジグを作った人はきっといろんな便利なジグも作っただろうことが容易に想像ができますね。

本日も最後までありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

ブリッジ厚み足し&ネックリセット /Martin D12-35(60’s)


スタッフの山口です。

今回は12弦ギターをがっつりと修理していきます。ネックリセットと薄くなったブリッジの修復、それとナット交換です。

ブリッジの高さに合わせてネック角度を決めるので必然的にブリッジ→ネックリセット→ナット交換の順番になります。

せっかくネックリセットをするのなら、とこの機会にブリッジを適正な厚みにしてあげるケースは多いです。


スロテッドヘッド、、。強敵です。

単純に弦数が2倍なのでどうしても6弦と比べて手間がかかりますが、修理料金は2倍にはなりませんのでご安心ください。

 

 


 んー、このブリッジ、いただけません。

限界を超えた薄さに見えます。サドルの高さももちろん低いですが、サドルの溝も深さ1mm程しかありません。


温めて接着剤を軟化させてから慎重にナイフを入れていきます。


ダメージを最小限に、いい感じに剥がせました。


大抵のブリッジは弦の張力に起因してこのように反ることが多いです。


今回は予算の関係とブリッジのウィングの厚みが残っていたため底上げで修復。


クランプして一晩おいてこんな感じです。


倍くらいの厚みにUP↑


元のブリッジのウィングの厚みが残っていればウィング上部を削れますので、形も本来の形に近づけることができます。厚みがないと整形しようとして削っていくうちに付け足した材がお目見えしてしまうためです。


反っていた底面を修正し、接着面を整えてからブリッジを接着します。

ブリッジ専用クランプもありますが、写真の通常のサウンドホールクランプ5本の方が使いやすいです。

接着時にピンホール内側の余計に溢れたタイトボンドを拭き取ったりできるので。


ブリッジが付いたらいつも通りのネックリセット開始。

「いつも通りネックリセット」と自然に発してしまうほど、いつもネックリセットさせていただいてます。


ブリッジと同じくこんな感じで。


ネックリセットの途中はこれまでのブログでもたくさん載せてますので今回はサッと。


記念撮影は忘れずに。


適正な仕込み角度にするために、ヒールはかなり削りました。と言っても1mm強くらい。


極浅の溝に一旦埋木をして、、


深いところで4mmほどの溝を新しく作りました。


最後はナット交換です。どこを修理するにしても、古い接着剤は取り除くのが必須です。


12弦はなんと言ってもこのナット作製が一番の難関です。


弦間のバランスと主弦/副弦の間隔に注意しないといけません。昔ですが完成間近で溝を掘りすぎちゃって放心状態のまま作り直したことがあります。


ナット調整の後はサドルです。

弾きやすい弦高を確保しつつこれだけサドルが出ていれば安心です。


6弦側、4mmあった弦高も2.5mmに、


1弦側も1.6mmほど。これは弾きやすい弦高といえますね。


ナットも新しくなり、


削ったヒール部分も綺麗に仕上がってます。


こっち側もOK。


派手な杢のハカランダ単板3ピース。


サイドも派手です。


派手を通り越してここはもう強烈な波紋状のエゲツない杢目です。


 

12弦ギターは需要が少ないせいか、比較的相場が安い印象があります。製作、リペアともに6弦より手間がかかっていますので少々違和感がある気もしますが、物の値段はそれだけで決まるものではないので理解はできます。

この音色はやはり12弦でしか出せないので、実は1本は持っていたいと思う人も多いのではないでしょうか。弦の張力が強い分、12弦は状態が悪いものも多いと思われますので、オークションなどで中古購入される場合はリペア料金も見据えて購入されることをお勧めします。あ、でもこれは12弦に限ったことではないか。。

よくワンオーナー品、という言葉を目にしますが、そのオーナーが適正な保管方法を守って使用していたとは限らないので、「ワンオーナー品=状態が良いはず」と解釈するのは危ういと思います。おそらく車と同様、出所がしっかりしていて、修理履歴などがちゃんと把握できている個体、という意味で使われているのだと思います。

とりあえず、12フレットジョイントのハカランダ12弦ギター、とってもとってもナイスギターでした♪ 自分は12弦ギターを手にすると、どうしてもイーグルスのTake It Easyを弾きたくなってしまいます。^ – ^

今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 

 

 

ブリッジ交換(作製) / Martin D-28


スタッフの山口です。

今日はブリッジの交換です。写真はすでにブリッジを剥がしたところです。


ブリッジを交換する理由は主に2つ。

①割れてしまい接着で修理しても強度が保てない場合

②弦高を下げきれずサドルの出しろを稼ぐために上面を削って薄くされちゃっている場合

画像からわかるように、今回は②のケースです。


エボニー材に少し大きめに墨入れしてベルトソーでカット。

エボニーを見るたびに「これって炭じゃなくて木なんだよな、、すごいな。」と感心してしまいます。近年は上質なエボニーは枯渇していますが「そりゃそうなるだろう」と思います。


ブリッジの作製は個体に合わせて完全なハンドメイド。同じ機種でも寸法は同じようで同じじゃない場合が多いです。例え寸法が同じでもピンホールが微妙に前後ズレてたりします。


両面テープでガッチリ旧ブリッジと新ブリッジを重ねます。

この時点では新ブリッジは一回り大きいのが画像からもわかると思います。


作製手順は師匠から習ったわけではないので半分は我流です。皆川氏は随所随所のツボを教えてくれたので僕はそれを参考にいつからか自分が作りやすい方法で進めるようになりました。

この画像のようなマーキングは分かる人にしか分からないはず。企業秘密です。


自分の中ではここが最重要ポイント。ベルトサンダーで思い切って結構ごっそりウィングを削ぎ落とします。経験上、ここでビビって手前で止めるとエッジがあまり立たずで仕上がりに差が出ます。


今度はマーキングを外側にずらして上面にアーチを作ります。

 


ある程度寸法が決まったら後は番手をあげて整形しつつ表面を滑らかにしていきます。


マーチンのブリッジらしくなってきました。


一旦レモンオイルまたは蜜蝋で面構えを確認。


こっちからも。


ディテールにはとことんこだわります。「分かる」人が見てもオリジナルか交換したものか「分からない」レベルになるかどうかの負けられない戦いがここにはあります。

 


師匠のチェックをパスしたら接着です。


いい感じです。「ふぅ。」という自分の声が写真から聞こえてきます。

さっきの画像を見直せば分かると思いますが、左右でマーキングがずれていたのは6弦側と1弦側で厚みが異なるためです。


弦長(スケール)を測定します。

NHKのMartin特集番組で長年Martinに勤めたOBの職人さんが「計測は二度、切るのは一度」みたいなことを言っていたのが印象的だったのでそれ以来、どんな時も二度計測する癖がつきました。


溝切りが終わったら新旧二つ並べてみます。


はい!バトンタッチ!


ロングサドルの溝切りをカッコ良く遂行するのはとても難易度が高いです。

やってみれば分かります。


いい感じです。

ウィングにはみ出し過ぎているロングサドルよりこのくらいがスマートです。


凛々しい面構えに乾杯。(自分はあまり酒が飲めないのでジンジャーエールで)


 

王道のアコギD-28のロングサドルは迫力があります。まさに戦艦ドレッドノート。

ブリッジはサドルに伝わる弦振動を広げながらそれをサウンドボードに伝えるとても重要な役割があります。極薄のブリッジから本来の厚みのあるブリッジに交換すると、思った以上に音が良くなります。良くなるというより本来の音になる、という方が正しい表現かもしれません。ブリッジ修理をする中で、何度かそのような劇的にいい変化をモロに感じられたことがあって「ブリッジは安易に削らない方がいい」と個人的には思っています。

「ブリッジを削ってサドルの出しろを確保し弦高を下げる」というのは修理にそれほどコストをかけられない場合のあくまでも応急処置的な修理です。修理というよりは処置。

もちろん、当工房のポリシーはお客様至上主義ですので予算に合わせて修理にするのか処置を施すのかを説明し、オーナーさんに選択していただくことになります。その説明をせず、あたかもブリッジを削るしかないかのように処置を施してしまうような修理屋さんがいたらあまりよろしくありません。ギタリストにとってギターは体の一部みたいなものですので、医者選びもそうですがちゃんと相談できて信頼関係のある修理屋さんに出したいですよね。

そしてその信頼と実績を積み上げることこそが修理屋として一番大事なことだと思います。

今回も最後までありがとうございました。

 

 

 

ネックリセット / Gibson SJ-200


スタッフの山口です。

キングオブフラットトップの登場です。言わずもがな、この貫禄。


弦高は6弦12フレットで3mm超え。


なぜか14フレットにスケール置いて写真撮ってますね、、。

とりあえず12フレットでも2mmを超えてそうです。


ブリッジのデザイン上、ブリッジピンからサドルまで距離がありますので、サドルはもう少し高くして弦のテンションを稼いだ方がハリのあるキングらしいサウンドになります。

ということで今回はキングをネックリセットしていきます。


指板の脇が割れています。修理済みかもしれませんが、ネックを温めているうちにニカワやボンドが接着力を失ってしまい再発する恐れがあります。

あとで「ここは割れていなかった、弁償してほしい」と言われたら路頭に迷ってしまいますので、ネックを外す前になるべく傷や不具合がないか記録として写真を撮っておきます。


フレットを抜いて小さい穴から、


少しずつ径を広げます。


修理屋によっては真ん中に一発の人もいますが自分はダブテイルの両サイドの近くをめがけて2発あけます。


ギブソンはヒールとボディの境目に予めナイフをなぞっておいて分離時の余計な塗装割れを防ぎます。


指板をトップから剥がしてダブテイル内部を温めます。


このまま2時間かかる時もあります。。


ネックが外れましたがやはり古傷が痛むようです。

今気づきましたがブレーシングがこの時代特有の感じですね。


修理中の修理中。。


いざネック角度を補正していきます。


角度が正常に戻ったら角度がついた分、案の定、ハイフレットが下がってしまいましたので勾配をつけたエボニーやローズウッドの薄板で下駄を履かせます。


前回も似たようなことを書きましたが、、ネックバインディングはあっても追加料金はないです。


ネックバインディングがあると何かと手間がかかります。


ちょっと飛んで、、ネックがつきましたのでフレットのすり合わせを進めます。


うーん、、ギリギリ!もう少しでフレットレスギターです。


磨いてあげたら、、


今回はナットも交換依頼がありますので元のナットを四苦八苦して外します。

写真のように元のナットが取れない場合は切ったり破壊する場合があります。


ナットの溝は綺麗にして


ナット作製。今回もオーソドックスな牛骨ナットに。


3弦が髪の毛一本分右だったかな、、と今写真をみて思いました。


センターズレもなく無事に完了です。


ヘッドをクリーニングします。


ペグを外した方が結果的に早く綺麗にできますね。


良い感じです。


塗装修正も不要でした。


良い仕上がりだと思います。


正面もOK。


ネックバインディングがあると指板の厚みを足した跡は残ってしまいますが、許容範囲。


サドルもキングらしい高さで威風堂々と復活です。


さすが、貫禄のあるルックスですね。50年代といえばロカビリー全盛期かと思います。ファッションも50年代は魅力的な時代です。


トップとは違うサンバーストでイカしてます。


先日、当工房オーナーの皆川がアドバンスギターさん(TC楽器)が自身の錚々たる在庫を元に出版したキングオブフラットトップ徹底特集本の新刊を購入して二人で見入っておりました。とても貴重な内容でしたのでご興味のある方はぜひ下記のリンクよりお求めください。

GIBSON KING OF THE FLAT-TOPS ~幻のギターを解明する世界初のSJ資料集~

 

当工房には師匠皆川が長年買い集めてきたギターの特集専門誌が多数あります。たまに見始めると時間を忘れて見入ってしまいます。ネットで検索すれば出てくる情報もたくさんありますが、やはり当時の実本でないと得られない情報もたくさんあります。今回のアドバンスギターさんの新刊も20年後にはとても貴重な情報源となる貴重なものになるのではないかと思います。

以前国産ギターの当時の広告などをコレクションしているお若いお客さんがいらっしゃいましたが、それもとても興味深かったです。弾くだけじゃなく色んな楽しみ方ができるギターにはやはりロマンがありますね。

今回も最後までありがとうございました。

ネックリセット / Gibson Humming Bird 1964


スタッフの山口です。

今回もネックリセットにお付き合いください。貴重なビンテージギターのネックリセットを任せてもらえることに感謝の気持ちを忘れず、初心を忘れず、進めていきます。


アジャスタブルサドルは限界まで下げられていますがこの弦高です。

6弦12フレットで3.5mm以上、


1弦で2.7mmほどでしょうか。これではどんなに良いギターでも弾きづらくて余計な力が入り良いサウンドを奏でることが難しいのではないかと思います。

 


毎回このアングルでネック角度不良の具合を伝えたいですが、、うまく撮れたことが無いです。


15フレットを抜いて、、


ダブテイルポケットを狙い撃ち。


次は指板をトップから引き離します。


トップに余計な傷をつけないようにナイフを入れました。


ギブソンはセットネック後に塗装してありますのでヒール部分とボディサイドの境目に切り込みを入れておきます。これをしないと境目がグズグズになることがあります。

ちなみにMartinはネックとボディは別々で塗装して組み込みますのでこの作業は必要ありません。


専用ジグを装着して温めます。


時間はかかりましたが無事分離。

古い接着剤を取り除いたりシムを剥がしたりクリーニングします。


元々のセンターズレを修正しながら狂った仕込み角度を修正します。

ビンテージギターのセンターズレは決して珍しいことでは無いのですが、元々ズレてたのかネック修理でズレたのかはわかりません。

ネックリセットしたらセンターがズレて納品されちゃった、、という方はぜひ皆川ギター工房にご相談ください。


ネックの角度が正常になるとトップに乗っかる部分の指板の厚みが足りなくなりますのでそれが極端な場合は指板の厚みを足します。


ネックバインディングがあると結構手間ですが、特にそれによる追加料金はいただいておりません。


ドライヤーで温めながらL字を作る場合もありますが、


元のバインディングが貼り合わせならそれに合わせます。


改めて、、結構手間のかかる作業です。


仕込み角度やセンターズレ、指板の修正を終えたら、いざ接着です。ヒール周りの塗装に問題がある場合は接着前に塗装修正を行います。今回はなくて大丈夫でした。


サドルの出しろが復活です。

 


ヒール部分もOK。


1弦側も綺麗ですね。


 

 

サドルの出しろは高ければ高い方が良い、という人がたまにいますが、それは今後弦高がまた上がってしまうような不具合が出ることを前提にしている人の意見だと思います。普段弾かない時は極力弦を緩めて、湿度管理など適正な保管を心がけていれば、ほぼずっと同じサドルの高さ、もしくは基本調整レベルだけで快適なプレイアビリティとサウンドを長期に渡って維持できます。

また、サドルが高過ぎてしまうと弦の力がネック方向に強く働くため前傾して、ブリッジの割れや変形の原因になってしまいます。

つまり低過ぎず高過ぎずの適正な高さがベストであり、また見た目もその方がカッコいいのです。今回のアジャスタブルサドルにもそれは言えることですね。

今回も最後までありがとうございました。

 

ブリッジサドルの仕様変更 / Gibson J-50


スタッフの山口です。

今回はブリッジはがれ修理のついでにアジャスタブルサドルからノーマルサドルへの仕様変更です。

よくあると言えばよくある仕様変更。音を変えたいorピエゾピックアップ仕込みたい、大体この2つが理由なのかなと思います。


アジャスタブルサドルを取り除いた底に見えるスプルースがグズグズです。

何回も修理してるのでしょうか。


温めてなんとか最小限のダメージで剥がせました。アジャスタブルサドルのポストの穴も埋木しましょう。


はい!こんな感じです。


次はサドルを同じブラジリアンローズウッドの端材で埋めます。


色が薄めの部分が埋木したところですね。

ブリッジ接着後にサドルの溝をルーターで掘りますのでこのまま接着面を平らに均して接着します。


ちょっと工程が飛びますが、、弦長を測定し、いいところに溝を彫りました。その溝に合わせて牛骨サドルを作ります。

両端のホワイトパールも新調しました。


これで完成!、、、

でももちろん問題ないのですが、少しタッチアップして埋め跡をカモフラージュさせてみます。


自分で自分を褒めてあげたいくらい上手くタッチアップできました。


 

どうでしょうか、ぱっと見、元々ノーマルサドルだったように見えませんか?

元の木目を伸ばしたりつなげたり、色味を寄せてみたり、一旦拭き取ってから再度チャレンジしたり。

割れ修理、埋木跡など上手くタッチアップが決まるととても楽しい気分になります。

映画の特殊メイクの仕事とか、きっとメチャクチャ楽しいんだろうなぁ、、と飛躍して考えてしまいます。日本人でもアカデミー賞を取った特殊メイクの人がいたような、いなかったような。。

今日も最後までご覧いただきありがとうございました。