山口君のページ

ロッド交換&ネックリセット&リフレット 中編 / Gibson Humming Bird 70’s


スタッフの山口です。

前編のロッド交換の続きですが、今回は主にネックリセット編です。新しいロッドの埋木をある程度ノミで削っていきます。


ネックの指板接地部分も綺麗にしていきます。


特殊だったロッド調整部も無事にGibsonらしくなりました。


指板が剥がしてある状態ですので、ダブテイルジョイント部を温める用の穴はいつもの指板上から開けるよりも容易です。それもあってロッド交換→ネックリセットはよくある組み合わせなのです。


よく見るとダブテイルジョイントの正面とボディとの隙間がなく、ピッタリなので、指板を剥がしていなかったら、穴あけ時にちゃんと狙ったところにあいているか不安になるパターンですね。


熱を加えてジョイントが緩んできました。


無事にバラシ完了、記念撮影。


狙い通りの部分に穴を開けられるので比較的効率良く熱が伝わり、ネックも短時間で外れました。


ここで指板接着。

ネックと指板の境目からタイトボンドがウニュウニュと溢れてきます。タイトボンドは後からある程度拭き取れますが、今のうちに綺麗に拭き取りましょう。


指板が元に戻り、ロッドのボルトナットを装着。いい感じですね!Gibson!


ダボを打っていてもネックと指板の境目は100%ツラが合う訳ではありませんのでサンディングで平らにします。その際に色が禿げる部分がありますのでタッチアップを施します。


全体的にオーバーラッカー塗装で塗装修正。


新品ではないのであくまでもその風合いにこだわって仕上げます。


ただただピカピカに鏡面仕上げにすれば良いわけではなく、ビンテージとして違和感のない程度にあの手この手、です。


ネック角度が決まるまで何度も組んでは外し、を繰り返しながら調整していきます。


センターズレのないように、また、角度はこの後リフレットをすることを考慮し、調弦した際に適正なネック角度になるようイメージしますが、個体ごとにネックの起き上がり方、反り方に微妙な差異がありますのでその辺が腕の見せ所なのだと思います。。


いい感じに角度も決まりいざ組込です!


今回はここまで。次回はリフレットで完了です。

これほどの時間をかけた大掛かりな修理は終盤から徐々に完成時が楽しみになります。見た目はもちろんですが、弾いてみて「サウンドがどうなのか」も楽しみなのです。そこが楽器修理の特権というかなんというか、醍醐味でもあるのです。

今回も最後までありがとうございました。

 

 

 

ロッド交換&ネックリセット&リフレット 前編 / Gibson Humming Bird 70’s


スタッフの山口です。

今回は70年代のハミングバードです。大掛かりな修理になるので3つに分けてアップしていきます。ロッド交換→ネックリセット→リフレットの順番で行うのが効率的です。


弦高はスケールを当てるまでもなく、一目で分かる程、激高です。ここまで状態がひどいものは大体角度狂い(元起き)に加え、ひどく順反りになっている場合がほとんどです。

 


サドルもまあ、こんな感じになっちゃってます。

ブリッジの厚みが薄いのは70年代ギブソンの仕様ですので問題ありません。


そしてフレットもぺったんこです。フレット交換時期はオーナー次第ですが今回はロッド交換で指板も剥がして指板修正も必要になりますのでリフレットします。

 

 

 


そして初めて見るこのロッド頭、、。

Gibsonとは思えない形状のロッド頭ですね。オリジナルと思われますが、まるでフェンダーから持ってきたのかという異様な感じがします。


まずは指板を剥がす前にナットを取り外し。

底面が癒着していて欠けちゃいましたがリフレットを予定していますので、どのみち新しいナットに交換になります。


指板の再接着のために数カ所にダボを仕込んだらハロゲン電球で温めながら指板を剥がしていきます。よく温めて、ネックの木目を読みながら慎重に。


無事に指板が剥がれました。上出来です。


古くなったロッドを取り出すために埋木を取り除いていきます。

 


全容が解明されました。太いロッド頭用に溝も広げられています。ワッシャーもナットから2cmほど入ったところに仕込まれているので、やはり製作された当初からこの仕様である可能性が高いですね。


頭部分を取り外して、、


まずは溝を綺麗にして加工していきます。


70年代のGibsonはリセールバリューが60年代ほどありませんのでなかなかこんなにコストをかけた修理は珍しく、色々と貴重な経験になります。


色々と綺麗にしたら記録としてパシャリ。

これが埋まっていたよ、という意味で。


本来のGibsonらしいロッドに変更するため溝をそれ用に加工します。


ロッドは個々のギターに合わせてガスバーナーを使って溶接します。


ロッドエンド完成!


今回は元の溝がほんの少しだけ広いので腐食防止のラバーを履かせることができました。


溝のRに合わせて埋木を製作。


また何十年後かにお目見えするであろうロッド君に別れを告げます。


埋木完了!

正直なところ、ロッド交換は指板を貼るまでちゃんと機能するか分からない部分もありますので、ある程度想像でシュミレーションしなければなりません。

 

今回のギターはロッドでなんとか弦高を下げようとして締め切られていました。

ロッド調整は弦高を下げる目的として行うものだと間違えて捉えている人が世の中には非常に多い気がします。ネックの状態を見ずに、「弦高上がってる!→よし!ロッド調整だ!」みたいな感じ。

アジャストロッドの本来の目的はネックの補強に加えて、「ネックの反りを調整するもの」ですので、「弦高を下げる」目的ではありません。アジャストロッドでネックを正しくリリース調整し、弦高はサドルの高さで調整をします。

弦高が高いな、、と感じたら、原因の所在及びトータルで正しい調整ができる人に見てもらうことをお勧めします。

次回はネックリセットからお届けいたします。

今回も最後までありがとうございました。

 

ネックリセット / Martin D-28


スタッフの山口です。

当工房の僕のブログを見ていただいてる方にはネックリセットばかりで申し訳ないのですが、、今回もネックリセットです。ネックリセットをしている当人は全く飽きません。それぞれ修理の中にも好き嫌いがあると思いますが、ネックリセットは好きな修理に入ります。


僕の担当は「ちゃんとメンテナンスしてから、なるべく最良の状態で販売したい!」というショップ様からの依頼が多いです。 

写真を見る限り、弦高はそんなに高くないですが、サドルが限界まで下げられていてこれ以上下げられません。

 


それに加えて綺麗な「くの字」で元起きしているのが写真からわかると思います。

写真でわかるレベルは重症だということは過去のブログでも書いていますが、、

写真でわかるレベルは重症です。^_^


元起きして角度が狂うとその分だけ弦の張力がナットから上方向へかかります。その分さらに元起きネックの順反りがが加速していきます。


いつも通り15フレットに穴を開けちゃいます。これに驚く人も多いと思いますが、ここが一番ギターにとって優しい穴開け場所になります。穴を開けないでネックを外すことができるダブテイルジョイントはありません。指板を剥がせば可能ですが、ダメージはそっちの方が大きいです。


トップに載っている指板を剥がすため、ハロゲン電球で温めて行きます。


写真が飛び飛びですいません。

ダブテイル内部に熱を加えてネックはずし成功。この外す工程がネックリセットで一番リスクがあると言っても過言ではないです。


但し、経験値や技術力が問われるのはここからです。センターズレの無いよう、ある場合は修正してあげながら、仕込み角度を調整し、組み込んだ時の木工精度など、指板修正がこのあとあるならそれを計算、逆算、弦を張った時まで想定します。個体差もそれぞれありますので、ネック外す前にその個体の特性を感覚で覚えておく必要もあります。


全てが整ったらいざ組込み接着です。


 

今回の修理の写真を探してまとめていましたが、どうやらこれ以降の写真は撮り忘れているようです。おそらく原因はこのころ工房に撮影が入っていたからかもしれません。

ご覧になられた方もいらっしゃると思いますが、テレビ東京の公式YouTubeにてマーチンのネックリセットの過程を取材していただきました。すでに公開されていますので、山口のネックリセットブログだけでは満足できない、という方はぜひ師匠皆川の職人技を動画でご覧いただけますと幸いです。

当初撮影の依頼があった時、「以前テレビで取材されて放送された時、修理依頼が殺到することはなかったから、YouTubeだけなら尚更大丈夫だろう」と二人で鷹を括っておりましたが、よくよく考えたらその時しか見られない地上波の放送よりも、ギターに興味のある視聴者へアルゴリズムがアプローチし、ずっとアーカイブとして残り続けるYouTubeの方が影響力がある、ということに気付かされました。案の定、大変な数の修理依頼をいただきまして、、、大変なことに。。

現在は少しずつ落ち着いてきていますので、引き続きご依頼、ご相談をお待ちしております。

皆川工房はYouTubeチャンネルは開設していません。何しろご依頼いただく修理をするのが精一杯でございまして、撮影や編集をする余裕もなく、、おそらく修理依頼が多いところほどSNSでの発信などできないのではないかと思います。もし修理依頼が少なくなって暇を持て余すようになってしまいましたらYouTubeチャンネル開設や積極的なSNS発信を皆川氏に提案してみようかと思いますが、なるべくそうならないよう、今まで通り日々精進していきたいと思う所存でございます。

今日も最後までありがとうございました。

 

 

フレット交換(+アイロン) / Gibson B-25


スタッフの山口です。

今回はフレット交換。ネック角度狂い少々、ネックの順反りが少々見られますが、ネックリセットでガッツリ直す予算はないとのことでなるべくそれらを修正することを念頭においてリフレットを進めます。


フレットがぺったんこなのがわかります。

68年製のピックガードは分厚いため、面倒ですが一旦外します。写真を見ても、おそらく前回のリフレット時につけちゃったピックガードの傷がフレットの延長線上にあるのがわかりますね。こうならないように外します。


レモンオイルをナイフにつけて剥がしていきます。ヌルヌルと全方位から。


ベタベタのヌルヌルです。


根気強く綺麗にしました。


指板修正の削り幅を少しでも小さくするため、補助的にアイロン矯正を行いました。


フレットを温めながら抜いていきます。


不要かもしれませんが、抜いたフレットは一応お返しできるよう保管。


指板修正は汗だくになります。


フレット打ちはいつものように玄能で行います。


長めに打たれたフレットをカットします。


切ったフレットのエッジを整えていきます。最初はある程度ゴリゴリに削ります。


少しずつ、


そして真っ直ぐに、


番手を上げていき、


綺麗に仕上げます。


これだけでも綺麗ですがチクチクと手に当たりますので、


均一に角をハンドロールで丸めます。工房によりこの辺の仕上げは個性が出るところかもしれません。


擦り合わせと磨きを終えたら古いナットを外して設置面を綺麗にします。


1フレットに合わせたナットが必要になりますのでナットを新調します。


弦高もいい感じですね。


新しく標準的な高さのあるフレットは本当に弾きやすいです。


ピックガードに新しい両面テープを貼って元に戻します。


最後にサドルで弦高をセット。アジャスタブルサドルなのでわかりづらいですが、、ほぼベストな出しろではないでしょうか。

アイロンの効果を感じ取れました。


こういうふうに見た時に、


ピシッと真っ直ぐフレットが並んでいるかどうかはほぼ自己満足の世界かもしれませんが、一般の方が気が付かないところにこそ、仕事の良し悪しが見えるものです。


フレットが新しくなり、なんとなく背筋が伸びたような印象のGibso君。


 

今回は指板修正前にネックアイロンを挟むことでロッドの効き幅もサドルの出しろも改善しました。ネックリセットも十分選択肢に入りそうな状態でしたが、ネックアイロンとフレット交換である程度イケると判断できたので、なるべく余計な手間とコストをかけないで無事完了。それぞれの症状に合わせて「これでいけそうだ」とか「これでは改善されないだろう」など、色んな選択肢があります。

そして経験からその判断ができなければ、適正な修理はそもそも始められません。

 修理に持ち込む際はなるべくオーナーと相談して修理を選択しますが、どれの方法がベストな選択となるのかはある程度おまかせいただければ幸いです。ネット上には誤った情報もたくさんありますので、鵜呑みにし過ぎず、まずはぜひご相談ください。

ところで、Gibsonは何と言っても「男前」ですね。

音も見た目も、男ゴゴロをくすぐってくる唯一無二のメーカーではないでしょうか。

そして何よりこの「ギブソン!」という響きがかっこいいですよね。

今回も最後までありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

ネックリセット&リフレット / Gibson Humming Bird


スタッフの山口です。

今回はネックリセット&リフレットのゴールデンコンボです。長いスケールを当てている写真からもわかるように12フレット上に隙間ができています。

費用もかかりますがその分、オーナー様の満足度も高い修理のコンボ。ちなみに同時に行う場合は工程上、手間も少し省けるので別々で行う場合の料金よりも1万円程お安くなります。

 

 


ネックの元起きも反りも併発しており、写真でも大きく変形しているのがわかると思います。


指板が浮き上がって見えるのは長年の弦の張力で角度が狂い、ネックが起き上がってくの字になっているからそう見えるのです。

このアングルの写真でも見て分かる=相当な重症です。


トップから指板を剥がしてから


ダブテイルジョイントに熱を加えます。


格闘の末、ノックダウン。


勝利の記念撮影。

ネックをトラブルなく外すことができるとホッとします。Gibson、Martinはワンピースネックが当たり前ですが、そうじゃない場合はつなぎの接着部分も温められて分離してしまうこともあります。

 


シリアルが消えていないことからこの個体は初ネックリセットと思われます。


ネックの角度を適正に調整したらシムを製作。ダブテイルジョイントをグッと押し込んだ時の感覚と音で木工精度を把握しながら厚みやテーパー具合を微調整。

シム製作は実は手間と経験が必要とする重要な工程です。手でグッと押し込み、さらにクランプの良い塩梅の力加減でしっかりと強固に組み込めるのが理想的です。


いざ接着。


無事に組込接着ができたらフレット交換。指板修正をしますのでアジャストロッドを少し緩めて締めシロに余裕を作っておきます。


フレット抜いて、、


こんな感じで。良い感じに。

指板に長年の押弦による凹みが見えます。あくまでもフレット溝の部分がしっかり修正できていればわざわざこの跡が消えるまで削りません。

この凹みは残ってた方がビンテージはかっこいいです。もちろん修正して消えちゃう時もあります。


いきなりここでフレット交換完了。

本当は何枚も画像ありますが割愛。


ナットも1フレットの高さに合わせて新調します。皆川ギター工房のリフレット料金には指板修正もナット交換も含まれています。

お店によっては別途費用がかかるケースも多々あるのでご注意ください。


アジャスタブルサドルも凛々しく見える高さに回復。


ギタリストなら一目でわかる弾きやすそうな低めの良い弦高です。


Gibsonはリセット時にヒールが少し飛び出ることがあります。


こうして見ると結構出てます。

しっかり奥まで組み込まれた証でもあります。


ロゴがギリギリのタイプ。この時代のハミングバードでは結構見られる気がします。


オリジナルのペグボタン、雰囲気がかっこいいです。


 

ハミングバードは初年度の1960年からロングスケールで作られていましたが、90年代に所謂リイシューされたものは現在に至るまでJ-45と同じギブソンスケール(628mm)になっています。 

60年代のリイシューとして再生産をスタートしたのになぜ大きくスケールを変えたのかわかりませんが、オリジナルのロングスケールはやはり迫力のある「ハミングバード」の音がします。現行品も名前は一緒ですが別物、という印象は拭えません。

一方、Doveは初年度から現在に至るまでちゃんとロングスケール。

何か理由があるとすればなんでしょう、、。

60年代前期のハミングバードは特に人気が高いので本当に手が届かない価格になってしまいました。先日70年代のハミングバードを修理しましたが、それもとてもナイスギターでした。どちらもピックガードに描かれたハチドリ(Humming Bird)が影響しているのかもしれません。信じるか信じないかは、、、今日も最後までありがとうございました。

 

 

トップ割れ / YAMAHA ダイナミックギター


スタッフの山口です。

お盆休みに里帰りをして押し入れの奥からこんなギターが出てきた、という方もいるかもしれません。

今回はそんなYAMAHAのダイナミックギターのトップ割れ修理です。


冒頭写真のようにすぐに蒸発する&塗装にも影響しないため、Zippoオイルを垂らして割れてる箇所や範囲を確認します。


今回は指板の両脇とくびれ部分に割れを確認しましたのでそこを修理します。


指板両脇は構造的に弦の張力がかかる場所ですので割れと同時に補強の意味も込めていつもよりしっかりとした割れどめを作りました。ブリッジプレートに使われることの多いメープルですね。


ボンドは表から注入しますが今回は古い割れ跡ということと、場所的にもあ限界があります。


そのためにも裏面からしっかりサポートしてあげるわけです。


しっかりとクランプをかけて一日置きます。


いい感じです。


「ここは修理してあるよー」というメッセージが込められています。


最後の我はくびれのそばです。ここは平面ですので「吸盤型接着剤送込器」が使えます。


たった今、命名しました「吸盤型接着剤送込器」は、空気圧を使ってタイトボンドを割れの奥まで送り込みます。


裏から見てこんな感じで白いボンドが出てくればOK。


元々がトップと指板の境目なのであまり気にならないかと思います。


もし跡が残っていても目立たなくしようと塗装修正や小細工をすると余計に目立ったり変な感じになったりします。

「なるべく余計なことはせずシンプルに」師匠から教えです♪


ダイナミックギター、今となっては時代を感じられるいいネーミングなのではないかと思います。そもそも「ダイナミック」という言葉が1960年代の日本では使われてなかった可能性もありますね。

きっと当時の日本ではまだ珍しい鉄弦のギターなのでガットに比べて「ダイナミック!」な音に感じられたYAMAHAの中堅社員が命名したのは容易に想像がつきます。

それに比べて今回僕が命名した「吸盤型接着剤送込器」は全くセンスも可能性も感じられないので取りやめようと思います。

今回も最後でありがとうございました。

 

 

ネックリセット&リフレット / Martin OOO-18


スタッフの山口です。

本日もネックリセットからスタートです。ブログの「山口くんのページ」カテゴリーを選択していただければネックリセットばかり出てくると思います。


もちろんネックリセット以外の修理もやらせていただいてますが、写真を撮り忘れてしまうことが多い中、なぜかネックリセットの時は撮り忘れない、という不思議な現象が起きています。


過去のブログでたくさん説明していますのでネックの取り外しサクッと。

恒例の記念撮影。


古い接着剤を取り除きます。今回は古傷が開いたようなのでもちろん修理してあげます。


接着剤を取り除いてきれいになっています。


前回の修理では割れ止めが無かったようなので、古傷を再接着と同時に山口式の割れ止めを設置。

この形の割れ止めはサウンドホール周りの場合、有効な手段ではないかと思います。


角度を修正し合体しました。


ダブテイルジョイント部に通じる穴を埋めます。


フレット交換は指板修正をしますのでナットは外します。今回の個体は象牙ナットですので再利用しようと思います。


紙の底上げがついていました。

きっと前回の時も象牙だから、と再利用するために底上げで対応したのでしょう。

ナットが底上げされていることは特に珍しいことではありません。


指板修正はただ真っ直ぐに削るだけではいけません。ネックの状態や調弦した時のネックの動き具合を考慮し、どの部分をどれだけ削り、逆にどこをなるべく削らないようにするのか、角度はどうか、指板のRはきれいに出ているか、インレイの貝の厚みはまだ余裕があるのかなどなど、あげたらキリがないほど気を使い、汗をかく工程です。


もし指板修正をただ真っ直ぐに削るだけだと、良いプレイアビリティを生み出せないことはもちろん、ハカランダなど貴重な指板材を必要以上に削り落としてしまうことになります。

指板修正は修正作業時のイメージ、そして自分の感覚がとても重要になります。


フレット準備中。


玄能でコンコン打ちます。力任せに打っても綺麗に打つことができません。

 


はみ出たフレットをカットします。


フレットのエッジを落とします。


フレットエッジを綺麗にまっすぐ落とすのも経験と感覚、頭の中でイメージしながら行うことが重要です。


約1時間ほどかけてフレットを磨いていきます。


フレットが完了し、ナットの底上げも完了。


いい感じです。


フレットのてっぺんと左右がビシッとまっすぐに揃っていればヨシ。フレットエッジが描く直線はプレーヤーはあまり気にしないところですが、いざそれを気にする人が見た時に「うむ」と言わせたいのです。

もちろんある程度の精度ならプレイアビリティに影響は出ませんが、、こういうところにこそ、こだわりが詰まっています。


15フレットに開けた穴はどこでしょう。ローズウッドは埋木跡がわかることが多いですが、今回のようにうまく馴染むとニヤケ顔になります。


弦高もいい感じになり、


サドルも狙い通りの高過ぎず低過ぎず。

 


ネック角度もフレットも見違えるように蘇りました♪


年相応の深みのある面構えですがとても綺麗なお顔ですね!


このルックスで音もナイスギターじゃない訳がありません。


 

ブラジリアンローズウッド特有の木目や質感はやっぱりいいですね!

噂ではブラジル政府は本当は少し前からハカランダを解禁したいとか。1969年のワシントン条約から既に50年以上経過している訳ですから可能性は充分にあるとは思いますが、「希少性」の観点からビンテージギター業界はそれを良く思わない可能性もあります。

ダイヤモンドは採掘量に対してわざと流通を制限して価値を押し上げることに成功してきた、という逸話がありますが、ハカランダを解禁するとしても出荷量をうまくコントロールすることができるのであれば価値の暴落はそうそう起こらないと思いますので、環境保護問題をクリアできるならぜひ解禁してほしいなと思います。

先日ハカランダブリッジ材がとうとう在庫がほぼなくなりまして、師匠皆川と色々当たって探したりしていましたが手に入らない状況が続いています。そんな中、質の良いココボロがネットに転がっていましたので「ブリッジ材の良さそうだ」となり、試しに仕入れてみました。質感はやはりハカランダとは違いますが、仕上がったブリッジは一見、ハカランダの要素はあっていい感じでした。(写真参照)

インディアンローズもまだストックがありますが、ブリッジ交換の際はココボロも承れますのでぜひご相談ください。

今回も最後までありがとうございました。

 

ネック折れ / Gibson J-45HCS ADJ


スタッフの山口です。

今回はネック折れ修理です。当工房で受け付ける頻度TOP3に入る修理ですが、Gibson(系含む)が多い印象です。ロッドの掘り込みがあって強度問題も関係してるとは思いますが、単純に使っている人が多いから、というのもあります。


本来は境目がない部分に塗装の吸い込みがありますので以前にも折って修理されているようです。

 


補強した部分は強度が増していますので、また倒したりぶつけたりした時はそのすぐ近くの無垢の部分が折れます。それは言い換えれば、二度と折れないように”過度な”補強をしても、結局補強されていないすぐ近くの部分が折れるのであまり意味がない、と言えます。もちろん再発しないための”適正な”補強には意味があります。

 


幸い前面は今回も無事なようです。


取り外したパーツは必ずケース内に一旦しまいます。その辺に置いておくと「あれ、これどのギターのだったっけ?と最悪な事態を招きます。そのためにもケースごとお預かり致します。


ここから先は企業秘密部分になりますのでサラッと。


基本的には補強が不要と判断した場合、特殊な接着剤で接着するのが皆川流です。もちろん状況に応じて補強を施す場合もありますが、9割方補強は不要です。


養生の紙に都議会議員選挙の告知が。。

明日は参議院議員選挙ですね。皆さんもギターは一旦置いて投票に行きましょう。

このままではギターを楽しむことすらできない社会になってしまうかもしれません。


あとは数日寝かせます。


ご存知の通り、塗装修正の有無で修理料金が変わります。演奏性と強度に差はありません。万が一、売ることになってもブラックライトなどを当てて修理歴がないかをチェックされますので査定額にもあまり影響はありません。


要するにオーナー様の気持ちで判断するだけです。できるだけ綺麗にしたいか気にせず受け入れるか。


逆光で暗いですが、、完了です。


暗いせいか、シルエットだけでもギブソンのヘッドシェイプの美しさがよくわかり、その完成度の高さを思い知ります。これだけでかっこいいなんてズルいです。


2000年前後のJ-45ですが、25年経って風格が出てきた感じですね!当時は新品のGibsonはビンテージと雰囲気が違う!と感じていましたが、昔からずっとオールラッカーで塗料事体もあまり変えていないのか、面白いことにどんどんビンテージらしい雰囲気が出てくるもので、最近は「ビンテージっぽい」風格の個体もチラホラ見かけるようになりました。20年後はさらにいい感じになっていると思います。


跡が潔く残っていてこれも風格というか勲章みたいなものとして愛し続けてほしいと願うばかりです。

今回も最後までありがとうございました。

ネックリセット / Martin D-18


スタッフの山口です。

今回もネックリセットです。ありがたいことに、一年中ネックリセットしています。

ネックリセットの経験値をこれだけ積める現場環境に自分の身を置かせてもらっていることに対して、感謝の気持ちを忘れてはいけません。


サドルが限界一歩手前、というところでしょうか。ブリッジプレートが削れちゃってることもあって、巻弦の太い部分がサドルに乗っちゃっています。音に影響するのは言うまでもなく、弦高も上がってしまいます。


リセット前に測定。

6弦側の弦高は普通ですが、、


1弦側はやはり少し高めですね。


抜きました。。

ブログを疎かにしてるのではなく、単純に写真の撮り忘れです。この辺は今までもたくさんアップしてるのでお許しください。


センターズレが起きないよう、また元々ズレている場合は修正しながらネック角度の調整をしていきます。

この時、ナット溝の位置が正常か確認するのも重要です。ナットは消耗品ですので必ずしも前回取付けられた(製作された)ナットがちゃんとしているとは限りません。

1弦と6弦の溝の位置がバラバラなら正しい位置を想定してセンターを見なければいけません。リセット後、ナットを交換したらセンターがズレてしまうのは本末転倒です。


センターズレの他、リセット後にサドルの背丈がバカ高くなってしまう、とか、ヒールに隙間ができてしまってなんか誤魔化す、なんてことは避けなければなりません。。

20年後、また他の誰かがネックリセットをした時に、「前回のネックリセットを施した職人は下手くそだな」なんて思われたら悔しいのです。


ダブテイルジョイント部の木工精度は最も重要です。∴ジョイントを強固にするためのシム製作は大事な作業工程。

接着剤頼みのダブテイルジョイントも年に何本かあります。すごく鳴っていて良いギターだなーと思った個体でも、意外にもネック外す時にジョイントがユルユルだった、なんてことも全然ありますのでそれはそれで興味深いのですが、、ジョイントがしっかりと精度が高い方がサウンドも良いに決まってます。


組込後はフレットを擦り合わせてナット調整し、その後弦高調整(サドル作製)を行います。


今回はその前にブリッジプレート修理を行いました。


元々ついていたコンデンサーマイクピックアップを元に戻します。


最後はサドルを作製して完成。このくらいのサドルがカッコいいです。

たまに「弦高はいずれまた高くなっちゃうんだから、サドルは高ければ高い方が良い」という自論を展開する人がいますが、決してそんなことはありません。ブリッジ割れや変形のトラブルはもちろん、ネックに余計な角度をつけることによって生じるデメリットもあるのです。

弾かない時は弦をちゃんと緩め、適正な高さのサドルを維持すること、これが正解です。

写真がブレちゃってますが、低めの弦高でいい感じになりました♪

しっかりとシーズニングされた木材で作られていることが大前提ですが、アコースティックギターやクラシックギターのようにボディが空洞のギターの場合、弾かない時にちゃんと弦を緩めておけば早々不具合は起こりません。よってネックリセットが必要となることもほぼありません。

世間では「木が固まるまでは何年か弦を張りっぱなしにした方が良い」とか、「1音だけ下げるのが正解だ」とか、「弦を張っておかないとネックは必ず逆反りする」とか、何の科学的根拠のないことを、あたかも「自分はこの世のギターの全てを知っている」みたいな顔をしながら言っている人を見かけます。

この世界の物理法則がひっくりかえらない限り、木はあくまでも木なので、ある一定方向に長時間、何十キロもの圧力がかかり続ければ、どこかしらが変形したり割れたりするのは至極当然のことです。僕も世の中のギター全てを知っているわけではありませんが、弾かないときはなるべくダルダルに緩めておくのが不具合の出る確率を最大限低くする一番良いギターとの付き合い方であることは間違いありません。

 

自分の「修理屋」という仕事の将来を考えると、弦を張りっぱなしにして不具合が出たら皆川ギター工房に持ち込む、というのをお勧めしたいところではありますが、、。( ´ ▽ ` )

今後とも皆川ギター工房をどうぞよろしくお願い致します。敬具

 

ネックリセット&リフレット/ Martin D-28


スタッフの山口です。

今回は比較的新しいMartin D-28をお預かりしました。ネック角度不良+順反りということで今回はネックリセットとリフレットのコンボです。リフレットはどちらかというと指板修正を目的として、どうせフレット全部抜くならフレットも新しいものに交換しましょう、というわけです。


いつものヴィンテージとは違い、新めのMartinはアジャスタブルロッド付きです。

ネックの重量も多少増えます。

 


ボディ側ロッド用に全て設計されていますね。この二つの穴は塗装する際に引っかける用の穴なのでしょうか。


いつもネックリセットばかりなのでリセット工程は今回は割愛しました。

組込み後はダブテイルに通じる穴を埋木します。


アジャストロッドがありますので今回は指板修正にネックジグは使いません。


15フレットの溝切りをしてフレット打ち開始です。


フレットプレスもありますが、アコギの場合はフレキシブルに作業できる玄能が最適解なのではないかと思います。ストラトのようにネックが外れるものはプレスする方が良いかもです。


フレットの仕上げまで終わったらナットを新調します。


出来合いのナットも市販されていますが、メーカーやあらゆる年代、何より個体差に対応できる代物は無いので、一見すると面倒ですが一から成形するのが一番仕上がりも作業効率もいいと思います。


Martinぽいナットを作ります。


新しいMartinは底面がフラットというかネックと平行です。伝統的にはヘッドと並行で傾斜がついています。作る方としてはコチラの方が簡単。


弦間がバラバラだと分かりやすく腕を疑われてしまいます。弾きやすさにも直結します。


ある程度溝の深さが決まったら一旦外して仕上げていきます。


いい感じです。


3、4弦のナット溝はそれぞれのペグポストに向かって気持ち斜めに切ってあります。意外と3、4弦の間が広がり過ぎる傾向がありますので注意してください。(自分で作る方は)


フレットのエッジには職人それぞれのこだわりが詰まっています。


僕が特に意識するのは写真のように見たときにフレットの両端が真っ直ぐにビシッと揃っているかどうか。


ここがガチャガチャになったりカーブしないように心がけます。元々指板サイド自体がガタガタの場合もありますのでその時はどこまで修正しようか悩ましいところではあります。


ヒールも問題なし。


こちら側もOK。


弦長補正を施してありますが、個人的には補正していない方が潔くトラッドでかっこいいと思っています。あくまでも個人的には。


 

今回は新しめのD-28でしたがオールドとは随所随所に違うところがあり興味深かったですね。

新しいギターでも古いギターでも関係なく不具合は出てくるものです。環境や弦の張力、木材が動きやすいものや、ネックは強いけどボディが弱いとか、同じメーカー同じ年式でも個体差が必ずあります。最近流行りのカーボン製ギターなどは個体差が一切なく安定した工業製品として確立されていますが、、何でしょうか、、何というか、、個々の個性がないモノに人間は愛着が湧かないモノだと思っています。人間も、みんな同じ顔、同じ性格、同じ声だったら果たして愛すべきパートナーをどうやって見つければいいのでしょうか。。

童謡詩人の金子みすゞさんの「みんな違ってみんないい」という言葉が多くの人に響き続けています。ギターも同じで「みんな違ってみんないい」、そんなところに奥深さや面白さ、そしてロマンがあるのではないでしょうか。

どんなギターでも、他人が何と言おうとも、自分が良いと思ったギターは自信を持ってその個性を尊重し、付き合ってあげてほしいと思います。この世に完璧な人間がいないように、ギターも完璧なものはないと思っていて、そこがまた愛らしくも感じるのです。

今回も最後までありがとうございました。